篠原千絵 『天は赤い河のほとり・全28巻』の感想

天は赤い河のほとり3


『天(そら)は赤い河のほとり・全28巻』

篠原千絵
小学館 少コミフラワーコミックス





<感想>
突発的に読みたくなりまして、立読みOKな古本屋さんで立読みしたり ネット喫茶で読んだりして、28巻読破しました。 そんな訳で手元に一切資料が無い状態ですが(笑)、勢いと記憶で感想書きます。 古い作品なんですけど、そのくらい面白かったのですよ! タイトルには、ヒロイン・ユーリが本編中でとある決断をした後に感じた「気持ち」が使われてます。 読んだ時は、その決意が彼女から奪うものと彼女が得るものの大きさに、私のほうが慄きました。 


お話は、ごく普通の中学生・夕梨 (ユーリ) が、呪いによって古代ヒッタイト帝国(歴史上、実際にあった国です)に呼び寄せられるところから始まります。 ユーリは、自分の息子以外の皇子を呪い殺したい皇妃によって、生贄として召喚されたのです。 訳も分からないまま命を狙われる彼女を助けたのは、皇子のカイル。 皇妃の狙いが自分ならばユーリを日本に帰すことも必然だと考えた彼は、側室として彼女を匿いながら時を待つことに。 しかし、皇妃は怪しげな呪術で人を操り、次々に姦計を仕掛けてくる。 その罠をくぐり抜けるうちに、ユーリは民衆から 「イシュタル(戦の女神)」 と呼ばれるようになり、カイルは彼女が人の上に立つ器量と政治的思考を持つことに気付く。 次第に惹かれあう二人だけど、あまりにも立場が異なるがゆえにすれ違いも多くて――。 ユーリは日本に帰れるの? 二人は、帝国の行く末はどうなる? ……というような物語でした。


私は大学ではトルコ史を専攻したけど、そもそも何故だか知らないけれど、メソポタミアとかヒッタイトとか古バビロニアとかの単語に興奮するくらい(笑)、中東の文化に興味があるんですね。 なのでまず、この作品の舞台設定が個人的好みのど真ん中でした。 製鉄技術をハッティ族から継承したことや、それを戦車に応用したといった史実を、ユーリやカイルの活躍に合わせて 「物語」 に昇華してあって、もしかして本当にこんなことがあったのかも!と思わせる説得力がすごくある。 実際、篠原先生はかなり史書を読み込んで作品を描いたらしいことがコミックスの端々に書かれています。 キックリ文書 (世界最古の馬術本) をドイツ語の辞書を引きながら読んでます、みたいな感じで。 え、マジで!? すごすぎる! 


そんな努力のおかげで生み出された世界観はとても雄大で重厚。 背景とか戦場での馬とかも、描くの大変だったろうなって思わせるくらいしっかり描写されてるから、物語にすんなり入れるんですね。 皇妃との駆け引きや他国との外交など、権謀術数のやり取りは読み応えあるし、当然戦争もあるから戦術的読み合いも奥深い。 皇妃がカイルの弟を暗殺しておきながらエジプトに罪を着せて、両国を戦に導こうとしたときとか、悔しくて泣きましたよ。 少女マンガであることを忘れさせる壮大な世界観にハラハラしっぱなしで、手に汗握りながら読んでました。 これは面白くないはずがない!って感じの深さがありました。


一方でこれぞ少女マンガだよね!っていう部分もたっぷりあって、ユーリとカイルのロマンスはその代表格。 ユーリには日本に帰りたいという願望があったし、カイルもその願いを叶えると約束していたんですね。 だからお互いに惹かれ合うようになってからも、相手の真意を量りかねてすれ違いまくるというじれじれな展開! くー、キュンとします!(笑) カイルには戦争の無い国を作るという野望があって、実現のために妃には厳しい要求をするから、その分正妃だけを愛し抜こうと決めていたという設定もあって、これが重厚な世界観の中でカイルがユーリだけを求めるという少女マンガ的お約束を可能にしてるんですね。 その辺にもキュンとなる!(笑) 前半で散々焦らされたので、後半カイルが一気にユーリ (の体) を求めだすのも、まぁ仕方ないよねー的に見守れるのも楽しいです(笑)。 っていうか、そういうシーンが多いのもこの作品の特徴ですね。 あれだけいろんな男に惚れられて、窮地にも立たされたのに、よくカイルだけのものでいられたよねホント良かったよね!と思うほどでした。 ユーリ頑張った!(笑)


ユーリを気に入り、カイルの生涯のライバルとなるのが、エジプトのラムセス。 のちにエジプト第19王朝でラムセス2世として即位する彼との戦いは、恋の面でも戦の面でもより厳しくより鮮やかで、読んでて一番楽しい部分でした。 ラムセス2世は史実としてヒッタイトの皇女を第1婦人に迎えてるんだけど、それがユーリとカイルの子 (孫だっけ?) だという設定。 もし3人の間にそんなロマンスがあったとしたら… と考えると、歴史も身近に感じられるんじゃないかなw  あとは、ユーリを不可触の女神として恋崇めたルサファがね…最後まで本当にいいところ取りでね…っ、正直カイルの存在感は薄れましたからね(←褒めてます・笑)。 彼にはあの選択しかなかったんだろうなって切なくなるけど、だからこそ彼はユーリにとって絶対忘れられない男性になったんだよなぁ…。 という感じで恋愛面もしっかり描かれてて、りるさんはいろいろ満足でしたw


ちなみに、ヒッタイトやエジプトがいつ頃の国なのか、というと、この年表が分かりやすいかもしれません。 年表でBC1680年頃にヒッタイト帝国が、1570年ごろにエジプト新王国時代があるとおり、この期間の物語です。 こうやって見ると、人間の一生なんて本当にあっけないことや、一つの国を作り、守り通すことの難しさもよく分かります。 カイルたちが守ったヒッタイトは当然現代には残っていないし、私たちが現実生きているこの国だって何時かはなくなるのかもしれない。 でも、だからといって努力が失われることではないんだよって、3500年の時を遡ったユーリなら言うかもしれない。 そんな風に考えながらマンガを読んで、ついでに歴史を勉強しちゃうのも、案外楽しいことかもしれないですね。 少なくとも、私は楽しかったですw 夏休みのお供に、いかがですか?

  ⇒天は赤い河のほとり 全巻セット (小学館文庫)



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HINAKAさんへ

>HINAKAさん

お久しぶりです。 コメント、ありがとうございますー。

>いやはや、見事に先を越されてしまいました!

先を越されると言っていただけるほど流行を追ってないですし(笑)、追っていない作品ですよ。 完結してずいぶん経ちますし、HINAKAさんのペースでお書きになればOKじゃないかとw
要領よくまとまってると言っていただけたのは嬉しいです。 結構頑張って書きましたので。

>エジプトを建て直すそうです。

エジプトって歴史的存在が大きすぎるんですけど、そんな大国でも「立て直す」時期があったんだなーというのが興味深いところです。 国の盛衰なんて本当に分からないもので、賢王が一人いればいいというものでもないですし。
そんな歴史の中で、ユーリとカイルという英雄が二人共に在れたことは、 とても奇跡的。 だからこそ、物語にも華があるんでしょうねー。

>ユーリ亡き後のお話は、どうしても調子が出ませんでした。

「その後」のお話は小説でも出てたので読んでみたんですが、やはり本編ほどの高揚感あるものに感じられなくて残念でした・・・。

>とにかく全てに渡って、本当に面白い物語だと、思います。

仰るとおりです。 数年後にまた一気読みしたくなると思いますねw そのときが楽しみですー。

先を越されました!

ホントに、お久しぶりのHINAKAです!

リル

いやはや、見事に先を越されてしまいました!
天は赤い河のほとり』全25巻、手元にありますし、ずいぶん読み込んでいるのだから、話題にしようとは思っているんですが、何しろ全25巻外伝1巻ですからねェ~。
しかもこうも見事に、コンパクトかつ要領よくまとめられてしまうと、どうすれば良いの?という感じで、さらに悩みます。

その上で、余計な事とは思うのですが、念の為の蛇足を1つ。
史実がどうなっていたのかは、よく知りませんが、物語に登場してカイルと一騎打ちをやったのが、後のエジプト王(ファラオ)となりラムセス1世として、エジプトを建て直すそうです。
そして、エジプトが最大の繁栄を極めたと言われるのが、孫のラムセス2世の時代で、この時になってようやくヒッタイト王女(ユーリとカイルの孫)を妃に迎えるのですが、この時には既に完全にエジプトの方が大国となり、ヒッタイトは大勢の妃を持つ大王の元へ、人質同然に王女を差し出したようです(エジプトでは、王位継承権のある王女を娶った者が、次のファラオになるので第1夫人に外国の女性がなる事は、有り得ませんでした。ただし、ネフェルティティ皇太后のように、王の世継ぎを自分だけが産んで〈他はどうにかして!〉、その子の母親もしくは祖母として実権を振う事が、できたようです。彼女は、実力で女王を目指したとも、言われています)。

これも番外編として作品化されていますが、ユーリ亡き後のお話は、どうしても調子が出ませんでした。
むしろ、同じく番外編ですが、連載中に別冊誌に読み切りで描かれた、「カッパドキアの物語」がとても気に入っています。
とにかく全てに渡って、本当に面白い物語だと、思います。

それでは、また。
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