2011.05.15
有川浩 『植物図鑑』の感想

『植物図鑑』
有川浩
株式会社角川書店
平成21年6月30日 初版発行
平成21年7月30日 三版発行/¥1500+税
『 お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか 』
<ご紹介>
ケイタイ小説サイト 『小説屋sari-sari』 で発表された表題作シリーズとその番外編2編が併録された、連作短編。 身近な植物が季節と気持ちの移り変わりを演出してくれる、素敵なラブストーリーです。 作中で登場するレシピ付。
酔っ払って帰宅したある冬の日、河野さやかは自宅前で、空腹で行き倒れていた青年と出会う。 『咬みません。躾のできたよい子です』 ・・・犬のような仕草にほだされ、さやかはつい彼を「拾って」しまう。 青年・イツキは想像以上に 「躾のできた」 男で、夜も無事に過ごせたどころか、朝食まで完璧。 久々の温かいご飯にすっかり癒されてしまったさやかは思わず 『行く先ないんなら――ここにいない?』とイツキを引き止めて・・・穏やかな同居生活が始まった。 けれどさやかがイツキについて知っていることは、名前と、野草に詳しいことと、作ってくれる食事が伝える優しさだけ。 そして秋、イツキは静かに姿を消してしまい・・・。
<感想>
正直に申し上げます。 読んでいる間にずっとニヤニヤしたり身悶えたりしていたためか、途中で顔の筋肉がツりました(笑)。 何ですか、顔の筋肉がツるって! こんな経験、ラブコメ脳におかされたりるさんとしても、さすがに初めてでしたよ。 要するに、そのくらい破壊力のあるラブコメだったってことだと思うんですが、それにしても痛かった(笑)。
さて。 あとがきで有川さんがラピュタ的な設定を示して 「男の子の前に美少女が落ちてくるなら女の子の前にもイケメンが落ちてきて何が悪い!」 と書かれてましたが、全然悪くないっ! むしろウェルカムです!(笑) 恰好良くて躾が出来てて家事完璧で優しくて恋人には甘々な人が降ってきたら、そんなの大歓迎すぎますよね (力説)。 というわけで、そんなウェルカムな設定がまずツボでした。
その上で、さやかとイツキがあくまでも 「同居」 だっていう微妙な関係が素敵。 家と経済力をさやかが提供する代わりに家事をイツキが担当するという、いわば雇用関係で同居が始まるのが可愛いです。 だってやっぱり、 「恋」 に成長するまでのドキドキをしっかり描いてくれるのが有川作品の大きな魅力なんだもん、いきなり同棲じゃ、つまらない。 夜にバイトを入れちゃうような節度ある関係のなかで恋が育まれるから魅力的なの! 洗濯物を誰が干すかで真っ赤になったり、イツキの影響でそれまで興味のなかった野草にどんどんはまっていくさやかの様子は、私が見ていてもすっごく可愛かった。 図鑑でこっそり勉強始めたときなんて特にそうで、これじゃイツキも可愛く想っちゃうよなーってすごくよく伝わってきました。
だからやっぱり、二人で 「狩り」 に行くシーンは、どれもこれもお気に入りですw 私自身が田舎暮らしなので野草に縁があるのも共感度が高い理由なのかもしれない。 二人が食べていた野草の中で私が食べたことないのは、イタドリくらいかな。 さやかが経験したツクシのエピソードなんかは、私が小さい頃そのまま体験したことです。 つい採りすぎちゃうんだよね。 あ、でもフキノトウのてんぷらは私、大好きですよ! 二人は苦々しく食べてたけど、味噌汁にも結構入れて 「ほろ苦」 を味わうのも好きだな。 好みが違うのはそれくらいで、イツキの作る他のレシピは、どれも本当に美味しそうっ。 いちばん気になってるのがノビル (私の地域ではノビロと言います) のパスタ! あれ美味しそうっ!! まもなくノビルの季節なので、採れたら作ってみようと決意してるのだw
二人を見てて思うことは、イツキの料理はきっとどこで食べても美味しいものなんだろうけど、さやかがいるからあそこまで美味しんだろうな、ってことです。 イツキ自身も言ってるけど、手の込んだものを作ってるわけじゃない。 それでもさやかが美味しい美味しいと食べてくれるから、イツキの中にも優しい気持ちが育っていって、料理にもその想いが染み込んでいくだと思うのです。 イツキの気持ちが、料理を育たせる。 それを食べたさやかの中で、また想いが深まる。 ・・・うわぁ、なんて素敵な食物連鎖っ! これだもん、こっちまでニヤニヤしたくなるってもんですw それで顔がツるんだけどさ(笑)。 その痛さも幸せでしたw
・・・あーでも、痛いのは顔だけではなくて、途中、さやかがイツキを失った後は、私の胸まで痛かったです。 別れは冒頭で描かれているので、いつかそんな日が訪れることは読者は分かってるんですが、それでも辛かった。 あとはもう、ひたすら祈りながら読んでいたような気がします。 また出会えるって。 花を咲かせ、実をつけ、一度しおれたような状態で冬を越す植物たちがまた春に花を咲かせるように……一定のサイクルで季節をめぐる植物たちと同じように、二人が長い冬を経て、また同じ季節に出会えることをただただ信じて、読んでいました。
だって、さやかとイツキが暮らした時間って、そういう時間だと思えたから。 『普通ダンプとかで轢かれたら死ぬよねえ。雑草ってすごい』 と言うシーンがあるんだけど、それって野草と密接に暮らしていた二人にピッタリな言葉だと思うんです。 雑草を食べて想いを深め合ってきたんだもん、ちょっとくらい離れたって傷ついたって何したって、死んでなくなっちゃうような気持ちじゃない。 実際、さやかがイツキが残したレシピを辿る行為は、諦めるためでも忘れるためでもなくて、想いを深めるものだった。 イツキだって、どこに居たってヘクソカズラを見た瞬間に泣いてしまえるくらいに、心に根付いたものだった。 …だから私も、ずっと二人を信じて読んでました。 絶対会えるんだって。 そう思わせてくれる、本当に素敵な物語でしたw
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