桜庭一樹 『GOSICK-ゴシック-』 の感想

GOSICK・1
『GOSICK -ゴシック-』

桜庭一樹
(武田日向・イラスト)

角川ビーンズ文庫
平成23年4月1日 初版発行/¥590+税





一弥がヴィクトリカの前に立ちふざがった。
銃口の真正面だった。 冷汗が出てきて、知らないあいだに足ががくがく震え始めていた。 一弥が歯を食いしばって立ちふさがっていると……。
後ろからヴィクトリカが、緊張感のない感じでつんつん背中をつついてきた。
「九城、君……なにをしているのかね?」
「ななな、なにって、ヴィヴィヴィクトリカを、じゃ、邪悪な弾丸から、まままもってる!」
「君が、死ぬが?」
「かかかもね。 でもこうすれば、ヴィヴィヴィクトリカは、しし死なない」
「まぁそうだが……?」
「ぼっ、ぼくが誘ったんだから。 君を生きて帰さないと。 帝国軍人の三男として、責任がある」
 

<ご紹介>
アニメ化もされた桜庭一樹の人気シリーズ、角川ビーンズ文庫新装版の第1弾。 天才美少女と正義感溢れる東洋人留学生との、ミステリファンタジーです。
時は1924年。 ソヴュール王国が誇る名門・聖マルグリット学園の図書館の最上階には、当時の国王が秘密裏に作らせたといわれる植物園が広がっている。 不思議な空間に溶け込むのは、最上級の陶人形のように美しい少女・ヴィクトリカ。 そして留学生の九城一弥だけ。 優秀すぎる頭脳と退屈を持て余すヴィクトリカに一弥が有名な占い師の殺害事件を話し聞かせると、彼女はあっさりと謎を解き、その対価として警察から小旅行が与えられた。 旅先で何かに誘われるように豪華客船に乗り込んだ二人は、未曾有の連続殺人事件を目の当たりにすることに。 次々と命を落とす乗客、不可解に提示される謎・・・。 誰が味方かも分からない状況下で、信じられるのはお互いだけ。 ヴィクトリカが紡ぎだす、驚愕の事実とは――!? 


<感想>
私、本当はこの本を読む予定はなかったんですよ・・・(唐突にどうした・笑)。 というか、桜庭作品は敢えて敢えて読まないことに決めてたんですが・・・巡り合わせって不思議なもので、結局は読んで楽しんでしまいましたw 
 
以前、私が尊敬するI様に勧められて、桜庭一樹原作・杉基イクラ漫画の 『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』 を読んでですね。 女子の友情や人間としての成長が、杉基さんが描き出す美しく初々しい絵柄と残酷なまでに救われないストーリーの中で、ものすごい緊張感をもって描かれるんですが、私は本当に衝撃を受けすぎてしまってしばらく気力が回復しないほどでした。 これは凄いものを読んだ・・・と心に刻むと同時に、その救いのなさゆえに 「桜庭作品は遠ざけよう」 と決めたのです。 そこまで思わせてくれる作品と出会わせてくれたことに、今でもI様に感謝してるほどです。 
 
でも結局は今作もいろんな人からお薦めをうけ、紆余曲折を経て、最終的には角川ビーンズ文庫版が発売されたのが決め手となって読みました。  『異国迷路のクロワーゼ』 でハマりまくった武田日向さんのイラストが見られるなら・・・という、ここまで迷った割には至極カンタンな理由で読み始めたという(笑)。 人生、そんなものですw(えー!

というわけで感想。 ちょっとネタバレるので 「続きを読む」 に収録します。





えーと、とにかく孤独で天才的なヴィクトリカと、正義感が強く優しい少年・一弥との関係が、めちゃくちゃツボでした(笑)。 
どうも複雑な生い立ちがあるらしいヴィクトリカは、他人から見るとちょっと付き合いにくい性格。 唯一友達といえそうな一弥の行動をピタリと言い当て、何で分かるの?と問われると、 「この世の混沌(カオス)から受け取った欠片たちを、わたしの中にある知識の泉が、退屈しのぎに玩ぶのだよ。 つまり、再構成するのだ」 と 「言語化」 してくれるんですね。 分からんて(笑)。

一方の一弥は、帝国軍人の三男として立派に生きなければ!という理想があるにもかかわらず、なかなかそれに追いつけない男の子。 女の子には口では勝てなくてつい謝っちゃうんだけど、ややこしいヴィクトリカにも真正面から付き合えるまっすぐなところが、とても魅力的。 冒頭でも引用したけれど、自分も怖いのに体を張ってヴィクトリカを守ろうとする性格なんか、すっごくイイですよね。
 

やっと 「友達」 としてのスタートラインに立ったばかりの二人が、300年前に当時の国王が愛人と過ごすために作らせた・・・といういわく付きの植物園で時間を過ごすのがとても印象的。 昔のエピソードが本当ならば植物園は 「二人で」 過ごすために作られた場なわけで、今、ヴィクトリカと一弥がはからずも 「二人で」 過ごしていることの意味を考えさせられてしまう。 出会う運命だったのかもしれないというロマンチックな面と。 そこでしか時間を重ねることが出来ない祝福されない関係なのかもしれない、という危惧と。 今後の展開を心待ちにさせる素敵な舞台設定で、一気に引き込まれます。 今の二人の間には優しい時間が流れていることが伝わってくるラストページのイラストは本当に見事で、しばし見入っちゃいましたよw やっぱり武田さんのイラストは素敵すぎます。 


そういう物語の設定の方はとても魅力的だったのですが、作品のもう一つの根幹であるミステリ要素は・・・正直、バレバレでした。 わりと有名なトリックたちを、物語の雰囲気に合わせてコラージュしてある印象。 なので、「ミステリ風」 としては楽しいけれど、「ミステリ」としては読めないなぁというのが正直な感想です。 ただ、普段こういうものを読み慣れない人には、すごく良い入門書になるんじゃないでしょうか。 私は基本的に「ミステリは雰囲気だ」 思ってるので、そういう点では楽しめましたよw あとは、もう少し謎の見せ方が違えば良かったかな?という感じ。 たとえばテニスボールとかは、バレバレ過ぎました…。


そんな中でも、 「名前」 で誤認させるトリックは、秀逸でしたw ところどころで挿入されるモノローグが読みにくいなぁと思ってて、ミステリで読みにくいときはたいてい叙述トリックだという私の勘(笑)は当たったんですけど (やはり隠すことによって日本語に無理が生じるんでしょうね) 、まさかアレックス=女の子だとは思わなかったなー。 しかもこれって多分、 「ヴィクトリカ」 という名前が男名だ、というのが伏線なんですよね。 

外国には名前の末尾の母音子音で男名か女名かが分かれることが多くて、ヴィクトリカも多分女名だと 「ヴィクトリア」 なんだと思うんですけど、そういう前例を挙げておいてモノローグに通常男性名であるアレックスを持ってくるのはすごく上手! そこにプラスして、ヴィクトリカを心配する一弥と、リィを心配するアレックスの姿が重なるのも、アレックスが男の子かもと思わせるのに役立ってるんだから、なおさらスゴイ。 この辺の構成はすごく好きでしたw 
(念のため。 アレックスという名でも女の子はいます。 いますが、辞書的にもアレックスは男名と書かれるのが一般的という意味でで書いています)


それにしても、占いの理由が第1次世界大戦だっていうのはものすごい風呂敷の広げ方ですね! けっこう驚きました。 占いのために容赦なく人が殺される描写は 『砂糖菓子~』 でも描かれた残酷さと共通してて、ある意味桜庭作品の持ち味なんだと思うんですけど、やっぱり気持ちとして重くなるものがあります。 ただ、ヴィクトリカと一弥の関係がどーしても気になるので(笑)、続きもビーンズ文庫版で楽しむことにします。 お薦め下さった方々、どうもありがとうございました! 




GOSICKs   ‐ゴシックエス・春来たる死神‐   (角川ビーンズ文庫) GOSICKII‐ゴシック・その罪は名もなき‐ (角川ビーンズ文庫) GOSICKIII  ‐ゴシック・青い薔薇の下で‐ (角川ビーンズ文庫) GOSICKIV ‐ゴシック・愚者を代弁せよ‐ (角川ビーンズ文庫)
異国迷路のクロワーゼ 1 (角川コミックス ドラゴンJr. 111-2)『異国迷路のクロワーゼ』1巻感想はこちら 異国迷路のクロワーゼ(2) (角川コミックス ドラゴンJr. 111-3)


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ayuさんへ

>ayuさん

コメントありがとうございますw

>長文なのに更に追記に来ました(えー)

イェイ、やったー!(笑) コメントはホント嬉しいので大歓迎です。 ありがと!

>元士族のお嬢様と外国人家庭教師のお話が載っていました
>思わずこれ管理人様にも良さそうだなーと思いました

・・・仰るとおり、好きな設定です。 何で私そんなにバレバレなのー!?(笑) 
こうやって私の好みを把握した状態でオススメいただくと、8割の確率でハマるんですよねー。 皆様の洞察力って凄いなぁとこちらが感動しちゃうほどです。  
もしお時間があれば、タイトルとか教えていただけると嬉しいですw

> 今も素敵すぎてもう!

良いな、良いな!! 私も『クロワーゼ』観たいーっ!!(じたばた)
辛うじて栃木県が関東地方に属しているので、いわゆるキー局で放映してる分は全部観られるんですけどね・・・最近はUHF局でのアニメ作品に魅力的なものが多いので羨ましいです。 頑張って栃木テレビ!

>エマは小説版から入りいまだ続刊待ちという…

あぁ・・・ありがちですよね・・・(苦笑)。 『クロワーゼ』はマンガがオススメですよ。 やはり、絵が特に魅力のお話だと思うのでw

>むしろ近い周囲には可愛がられているような

コバルト文庫だとよく「そのあらすじの書き方変じゃない?」と思うことはありますねー。 ビーンズだとあまり感じたことないのでちょっと驚きました。 そこに気をつけておきますね。

No title

お忙しい中丁寧なお返事ありがとうございます 長文なのに更に追記に来ました(えー)

酒井先生の読み切り目当てで買ったジャンプSQの別冊?に元士族のお嬢様と外国人家庭教師のお話が載っていました
思わずこれ管理人様にも良さそうだなーと思いました
まだ全て読み切っていないのですが、実験的な作品が集められてます

>クロワーゼ、うちも本来圏外ですがtvkが映るケーブルTVのおかげで見られています(その代わりローカル枠でNTVとTBSの深夜枠は見られませんが) 今も素敵すぎてもう!
原作か小説本の角度からも入ってみようかと思います ただノベライズ化で思い出しましたが、エマは小説版から入りいまだ続刊待ちという…

>あと銀の竜騎士団のあらすじにある同僚達は冷たくて、の下りはちょっと違うかと 関係は悪くないむしろ近い周囲には可愛がられているような

凪沙さんへ

>凪沙さん

お久しぶりですねw コメント、ありがとうございます!
こういうブログでは来ていただけるだけで充分嬉しいんですけど、お久しぶりですーってコメントいただけるのはまた格別に嬉しいです。 
こんな場末のブログを覚えててくださって、ありがとうございますw

>小説で、でしたが。

小説で読む勇気はまだ出ないです・・・。 いつか読みたいですね。

>でもりるさんの感想読んだらおもしろそうだなぁ。

お役に立てるかなぁ?(笑) 私はラブコメ設定に目がないので、ちょっとヒイキしてるかもしれません。
とりあえず、文体がまだ荒いのは気になりました。 そこは編集さんちゃんと直してあげないと!と思った部分も所々ありましたね。 でも、楽しめましたよw

>辻村深月の『ぼくのメジャースプーン』はすごくよかったです!

ありがとうございます!
実は私も深月さん大好きなんですw ずいぶん前に書いた感想もありますので(感想文が下手すぎて今読むと恥ずかしいんですけど・・・)、良かったら覗いてみてくださいなw

http://sorayumenote.blog9.fc2.com/blog-entry-785.html

切なくて温かくて「ぼく」の決意が潔くて、もう本当に泣かされました。 今でも大好きな作品を、凪沙さんもお好きだと仰るのが嬉しいですねー。
何かオススメありましたら、またよろしくお願いしますw

ayuさんへ

>ayuさん

こんにちは! コメントありがとうございますw
迷惑だなんてそんな! むしろこちらこそ、我侭なお願いを聞いてくれてありがとうございます。 
いつもメッセージ頂ける人のことは覚えてるのですが、ネットって顔が見えないから確証が持てなくて淋しかったんです。 こう、お返事書いてても、間違った人に向けて書いてたらどうしよう?みたいな。 これでayuさん宛てにお返事がかけるので、とても嬉しく思います。 今までも、ありがとうございましたw

>異国迷路のクロワーゼ、私も観ています とても優しいお話ですよね

いいなぁ! 私、アニメは放映圏外なので見れてないんですよー。 いつか見ますけどね!(野望・笑)

>クラシカルでミステリアスな雰囲気の中で関係を大切にしつつ謎解きをする感じでしょうか

そうですね。 私が長々と書いたことをすごく上手に要約してくださってて凄い!と今思いました(笑。っていうか私の文章が長すぎるんだよなー)。 まさにそんな感じです。 荒を探すと、文体がまだぎこちないので所々読みづらいです。 が、それもじき慣れますね。

>なかよしで別作品が今度漫画原作化されるそうです

『荒野の恋』ですね。 私は他の桜庭作品を知らないんですけど、なかよし世代が読める作品なんでしょうか・・・。 まぁなかよしは『×しな!』で充分際どいですけどね(笑)。

>私からもお薦めさせて頂いてもよろしいでしょうか

ありがとうございます、嬉しいですw
『銀の竜騎士団』はちょっと気になります。 っていうかビーンズって大体気になるんですよね。 売り方が上手いというか。 ちょっと積読本が溜まってるので読めるかどうかお約束できなくて申し訳ないんですけど、気にしてみますね!

>長々すみませんでした

そんなことないです。 長いコメント嬉しいです(笑)。
よろしければ、またお越しくださいねw

おひさしぶりです!

ゴシックですか…

わたしも 『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』は読みました。
小説で、でしたが。

すごいよかったんですけど、本屋さんで見つけたゴシックはだいぶ雰囲気が違うなあと思って、手を出さずに隣に並んでいた『テンペスト』を買って帰った覚えがあります。

でもりるさんの感想読んだらおもしろそうだなぁ。
読んでみようかな。


最近あまり本を読めていないのですが、辻村深月の『ぼくのメジャースプーン』はすごくよかったです!
よかったらぜひ♪

No title

こんにちは
以前は無記名拍手でお返事の時ご迷惑かけてすみませんでした(4月のコメントです)
前にコメントした時のHNを忘れてしまっていたもので… 今回からはこのHNで
(雨川さんと有川さん他好きな少女漫画読者です/笑 好みの傾向が同じすぎていつも同じばかり言ってすみません)
異国迷路のクロワーゼ、私も観ています とても優しいお話ですよね
GOSICもビーンズ刊のあらすじを見て惹かれ、アニメを見て読むか決めよう!と思ったものの、録画失敗他からずるずる今に至ってしまって…(苦笑)
クラシカルでミステリアスな雰囲気の中で関係を大切にしつつ謎解きをする感じでしょうか(読もうと思っているのであえてバレは読まないままに 笑)
好みが同じ方にお薦めされるとツボが同じなので背中を押された気分になります
それと思い出したのですが、なかよしで別作品が今度漫画原作化されるそうです↓
ttp://natalie.mu/comic/news/52369

私からもお薦めさせて頂いてもよろしいでしょうか
他の方に薦められて読んだ、ビーンズから出た銀の竜騎士団シリーズが良かったので
世界観や頑張るヒロインの成長、周りの志をしっかり持ったキャラクターetc 続きが出たら買うと思います
コミックスの気になるリストに入っていたクレマチカ靴店も文句なしにお薦めです
酒井先生は連載作家さんですがファンタジー&短編オムニバスがやはり向いていると思います 寓話的というか皮肉みたいなところも味
電撃系だとメディアワークスの空の彼方、雨の日のアイリス等も好きな雰囲気です
素敵な考察感想いつも楽しみにしています 長々すみませんでした
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