雨川恵 『とらわれ舞姫の受難 はた迷惑な求愛者』 の感想

とらわれ舞姫の受難 はた迷惑な求愛者
『とらわれ舞姫の受難 はた迷惑な求愛者』

雨川恵
(挿画:まち)

角川ビーンズ文庫
平成24年2月1日 初版発行/¥514+税





「あ、ま、待って。 あなたは何か勘違いしている。 私は……」
「ルーナ」
だが、彼の口から自分の名前が出てくると、そうも言えなくなる。 というか、何故この男は彼女のことを知っているのだ。 まさか、先刻の騎士たちの関係者だろうか。 この男もやはり、彼女を追っているのだろうか。
警戒も露わに、ルーナは男を睨みつける。 が、衝撃はまったく別の方向から襲ってきた。 ルーナの強張った表情など気にも留めず、男はにっこり笑うと、とんでもない台詞を吐いたのだ。
「愛してる」
「……は?」
「君を愛してる、ルーナ。 ずっと前から、君のことだけ見てる。 君の淡い赤みががった髪も、闇の中にきらめく宝石のような瞳も、冷静で綺麗な顔も、柔らかそうな唇も真珠色の歯も、剥き出しの腕も衣装に透ける脚も、他の娘のように偽っていない胸も大好きだ」
「気持ち悪!」



<感想>
『アネットと秘密の指輪』 シリーズで大ハマリした雨川恵さんの新シリーズです。 『アネット』 完結から1年以上経ってますよ・・・待ち望んでました!(感涙っ) 私は雨川さんの媚びのない地の文章が大好きでして、今回も冒頭でルーナが剣ノ舞姫として戦うに至るまでの情景描写にうならされました。 だって読んでるだけでその景色が頭に広がるんだもの!  少女小説で周囲に至るまでの明確なビジョンを感じることがあまりなくて、たまに 「今結局何が起きてるの?」 と思うときがあるんですが、雨川作品にはそういう心配がないので嬉しいです。 おかげで、ルーナが皇宮で迷うシーンでは、私も脳内で地図を描ききれず、ルーナと一緒に迷ってしまうほどでした(笑)。 だって迷うよその立地なら・・・ねぇ(訊くな)。


という訳で新作は、剣と魔法の王道ファンタジーでした。 数年前のとある事故がきっかけで剣闘士から 「剣ノ舞姫」 に転向したルーナがヒロイン。 幼い頃から面倒を見てくれたイェーガという興行主のもとで活躍してしていたある日、貴族から仕事の依頼が舞い込んで来る。  「魔法」 を使える貴族にろくな奴はいないと考えるルーナが嫌々ながらも仕事に赴くと、何故かそこには皇宮騎士が待ち構えていて、彼女は追われる身になってしまう。 しかも逃げ込んだ先で偶然出逢った美貌の男・イシュトが、突然ルーナに愛を囁いてきて・・・!? というお話。 全体的な雰囲気は割りとシリアスで、そんな中でも毅然としたルーナが美しく、イシュトが・・・オカシイです(笑)。


剣と魔法のファンタジーという設定は、個人的にはルーナの剣ノ舞姫という肩書きともども大好きなのですが、1巻目では 「剣」 の部分はそれほど強調されませんでした。 たしかにルーナは剣を閃かせて舞うように戦ってたけど、やっぱり 「剣と魔法」 と言うからには聖剣エクスカリバーみたいな究極の剣が欲しいわけですよ! そこだけちょっと残念でしたが、反面的に強調されていたのが 「魔法」 の部分で、この設定はとても好みで盛り上がりましたw  魔法というものはそもそも間借りしているような力だ・・・っていうのが面白い。 根源は 「精霊の民」 という古い一族が残した 「輝石」。  人はその輝石に術式をかけて魔法という偽りの能力を手にしているんですね。 で、どうやらルーナは精霊の民や輝石とも縁の深い出自のために巻き込まれていく・・・という感じ。 


輝石にかけられた術式が解除され、魔力を上回った時、何がおきるのかはまだ誰にも分からないんだけど、ルーナがそれを為すのを見てみたいんだと言うイシュトの体にも、魔力を維持するための仕掛けがされている。 輝石と魔法、大きな力の源となる存在はともに不自由な枷を嵌められていて、それゆえにどこか歪んでしまっているんですね。 他人に感情を抱けないイシュトも、ルーナに圧倒的なまでの信頼を抱かせてしまう輝石も、どちらも何かがおかししい。 そして、その歪んだ存在がともに求めるのが――ルーナ。 ルーナの、ルーナらしい輝きを求めざるを得ない彼らの不完全さに、ちょっと切なくなりました。 大きな力を抱えるということは、けっして自由と並び立てないんだなぁって。 だからこそ、求めるんだろうなって。 


あとはアレですね、雨川さんもあとがきで書かれているように、ヒーロー役がストーカーという究極設定(笑)。 むしろヤンデレ? 初対面で 「愛してる」 と囁きながら拉致、二度目に逢っても 「愛してる」、 顔を見るたびに 「愛してる」 と囁くわりには――ルーナの本質を全然見ていない、分かろうとしていないという恐ろしさ。 そんなの仮に *ただしイケメンに限る、という注釈がついてたとしても超コワイって!(笑) ・・・ただ一応この設定って、たぶん今シリーズを象徴するものでもあるんだろうなって思います。 理想を相手に押し付けざるを得ない人間の在り方的な・・・ね。 イシュトはルーナへの愛情に、イェーガはルーナとの親しみに、ルーナは皇帝への敬愛に・・・そうやって相手に感情を抱き押し付けることで平衡を保つのが人の弱さであり、逆に言えば 「可能性」 なんじゃないかって思うのです


だって、相手に押し付けた勝手な理想は、いつか必ず打ち破られるから。 最初にそれを砕いたイェーガは自分の手でルーナへの親しみを憎しみに変換してしまったけれど、そんなことをしても結局はルーナに救われるわけで。 本当に自分が向き合わなければいけない感情は何だったのか…イェーガ側の気持ちは今回描かれたなかったけど、彼の苦悩が止まる訳でないことは確かです。 イシュトにしたって、今は剣ノ舞姫としてのルーナを愛しているだけで、ルーナ本人を愛している訳じゃない。 生き生きと舞うルーナの姿はきっと美しい生命力に溢れてて、ただ生きることだけを己の使命だと感じているイシュトには、ものすごく輝かしいものに映っていたんだろうな・・・と想像するのは難くないけど、それはルーナの外側でしかない。 なので、 「想像してたのと、全然違う」 とむっとするイシュトは勝手だけど、そこでようやく 「ルーナ」 という人間と向き合ったんだなってすごく嬉しくなりました。 みんな、ここからなんだと思うのです。 理想から現実に目をむけ、居心地のよい場所から一歩踏み出したときに、自分がどう変われるのか。 そうやって変わるきっかけをくれる相手に出逢えたこと自体が奇跡なんじゃないか。 そんな気がするのです。 


大事なのは、誰かにとって 「奇跡」 と感じる絶対的な何かを、人間も為すことが出来るってことなんじゃないでしょうか。 ルーナにとっては、昔イェーガが命を救ってくれたこと、そして皇帝が自分とイェーガを救ってくれたことがそう。 圧倒的に不利な状況下で命を救うという大仰な現実は、神が用意してくれたものではなく、相手が彼女を救いたいと思ってくれたからこそなされたもの。 その現実を理想化してしまったのはルーナの勝手だけど、ただ 「救われた」 という事実は確かに奇跡なんだと思うのです。 だとすれば、イシュトがルーナと出逢えたことも、奇跡になると良いな。 彼の宝石のように美しく冷たい瞳を、太陽のようにみずから光り輝くものにルーナが変えることが出来たら、きっとそうなるんじゃないかなって思います。 


――ただ、ルーナの恋の相手としては、イシュトは難しすぎるけどなー(笑)。 ラストページとかやっぱりマジ怖い! 愛情重い!!(笑) あの思考回路を根本的にルーナが叩き直さなきゃいけないわけで、早くも恋の・・・というか、ただの対人関係だとしても多難が見えすぎです。 個人的にはロキさんオススメ! もうロキさんで良いような気がします!(いやダメだろ・笑) というわけで続きが気になるんですけど・・・えーともちろん刊行されますよね??? 個人的には 『アネット』 シリーズへの愛には届きませんでしたが、まだまだ謎も残ってるので、続刊楽しみです!





Loading...
Secret

☆Web拍手ボタン

押して頂くとりるがハリキリます(笑)

☆カテゴリ

☆サブカテゴリ (タグ)

 

☆最新コメント

☆リンク(おすすめサイト様)

☆アクセスカウンタ

QRコード

QRコード

RSSリンクの表示

アクセス解析

関連記事Loader

[猫カフェ]futaha

全記事表示リンク

全ての記事を表示する

☆検索フォーム

☆購読予定一覧

☆アニメDVDの人気ランキング

☆更新日カレンダー

プルダウン 降順 昇順 年別

07月 | 2017年08月 | 09月
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -


☆オススメ