久賀理世 『英国マザーグース物語 聖夜に捧ぐ鎮魂歌』 の感想

聖夜に捧ぐ鎮魂歌
『英国マザーグース物語 聖夜に捧ぐ鎮魂歌』

久賀理世


集英社コバルト文庫
2013年6月10日 第1刷発行/¥580+税





「叔父上。残念ながら、クリスマスに叔父上の力を借りることはできなくなりました。わたしたち兄妹は、ノーフォークに赴かなくてはならないようです」
「ノーフォーク?」
セシルはきょとんとした。アッシュフォード家にとっては、とくに馴染みのない土地だ。
かすれ声で、ダニエルが言った。
「セシル。わたしたちはどうやら、クリストファー・リーズの人質にとられたらしい」



<ご紹介>
『英国マザーグース物語』シリーズ第5弾。 7月期に発売される次巻で完結です。
子爵家の令嬢でありながら、行方不明となった父の情報をつかむために男装して新聞社で働くセシル。 名も知らぬ婚約者がいるにもかかわらず、どこかで謎めいた雰囲気の同僚・ジュリアンに惹かれていったが、実はジュリアンこそがセシルの婚約者であり、また、父の情報を探る政府のスパイだったのだ。 ずっと騙されていたことにショックを受けるセシル。 いつの間にか彼女を真剣に愛しているジュリアンは、言葉を尽くして想いを伝えようとするが、拒絶され会うことも叶わなくなってしまう。 しかし、二人の隙をつくかのように、クリストファー・リーズから一通の招待状が届けられる。 人質のように囲われたセシルに対し、クリストファーは英国転覆の謀(はかりごと)を仄めかしてきて――!?





<感想>
ツイッターで「前巻に続き、スゴイところで終わってて…」という嘆きを見てしまったので、「よし、続きが気になっても大丈夫なように、なるべく次巻の発売日直前に読もう!」と心に決めてたのですが、堪え性がなくて結局月半ばで読んじゃいました(笑)。 いやでもだって、気になりますって! その期待を裏切らず、今巻ものすっごく展開が興味深くてドキドキしっぱなしでしたよ。 シリーズ中でいちばん面白かったのは間違いないです! そして本当にスゴイところで終わってました・・・この引き、久賀さん容赦ないです・・・(笑)。
 

ただその前に。 前巻辺りから、りるさんは怒ってるんです!(ぷん!) 何にって、基本的にはジュリアンに対してですよっ。 あと微妙にサブタイトルにも怒ってます(笑)。 先に後者の話をしましょう。 今巻サブタイトルはネタバレをしない、でも興味を惹かれてやまない素晴らしいものですが、前巻の「裏切りの貴公子」は・・・セシルを「裏切る」立場にいる貴公子は一人しかいないわけですもん、読む前から「うわーカモメのくせに裏切るんだ!?」みたいに思っちゃいまして(笑)。 ちょっと残念でした。 ちなみに「え、カモメって何?」って思った方は、⇒1作目の感想 をご参照いただければ意味が分かるかと・・・(宣伝w)。 いずれにしろ、ネタバレ的なことはちょっと悲しいので、贅沢な要求で申し訳ないんですけど、出版社さん側で考えてくれると嬉しいなぁと思ったりします。


前者の話に戻りますと、ジュリアンが裏切ることに関しては「やっぱり」と思った部分もあるので、実はさほど気になりませんでした(だって彼は明らかに優秀すぎました・・・)。 私が怒ってるのはむしろ、ジュリアンが「セシルの気持ちを確かめてから告白したかった」と言ったことに対して、です。 彼が、私が想像していた以上に実家や父親に縛られた人間だということは分かりました。 だから反抗するなんて考えもしなかったんだろうということも、分からなくもないです。 でも! それでも!! 先に彼女の恋心を聞き出そうとするのは、やっぱり違うと思う! 彼女の気持ちを聞かないと「なにを犠牲にしても父と戦う決意ができる」と思うに至れないっていうのは、ぜったいに違うと思うのです。 

彼の人生をセシルに背負わせるような、そんな逃げるような恋をして欲しくなかったんです・・・誰よりも、ジュリアン自身のために。 セシルへの想いは初恋なんだと思うんですよ。 だからこそ大事に育ててあげて欲しかったし、セシルのことも逃げ道に使って欲しくなかった。 前巻のP153で「彼(=ダニエル)の鉄拳なら甘んじて受ける覚悟がある」とジュリアンは言ってたけれど、彼がするべきだったのは今回のすれ違いを予感させるような覚悟ではなくて、何よりも最初にセシルへの愛情を貫く覚悟だったんだと思うのですっ(力説!)。 ただその反面、フラれた後の(笑)ジュリアンは、ちゃんとその覚悟をもってセシルと接してたことがすごく嬉しかったです! 挫折したところからいかに這い上がるかが重要な訳で、そういう意味では後半ジュリアンが押しに押しまくる展開はとても魅力的でした。 セシルさんは最初から魅力的でしたけど、ジュリアンはどんどん魅力が増してく感じです。 それこそ、セシルの影響なんだろうなぁ☆


あと今回すごく感じたことがあって。 それは、クリストファー自身が「アレクサンドライト」みたいな人だなっていうことでした。 彼の左目に輝く貴石は、光によって色を変える矛盾を孕んだ不思議な石。 思わず目が離せなくなるような美しさを放つところも、相手によって態度が変わるところも、底知れない深みがあるところも、冷たく輝くところも、教会でヴィルヘルムからセシルを庇ったような優しさも ……クリストファーはまるでアレクサンドライトの魅力そのもののようだと、私は思います。 彼はセシルが感じたように、たぶん虚しさを抱えた人。 でも、虚しさの原因から目を逸らしてる人でもある気がします。 一生懸命考えたけど、彼が幸せになる未来は残念だけど想像できなくて・・・だってそんな未来は、彼が拒みそうなんだもの。 もしかしたら彼は、セシルに自分に近い感性を感じてるのかもしれない。 ご令嬢なのに男装してまで何かをなそうとするセシルはある意味型破りで、生き辛さを感じさせるほどまっすぐで、そういう点に共感してるのかなって。 だとしたら、クリストファーもある意味純粋さゆえに、生き辛いのかなって・・・。 


それにしても、前述したとおりものすごいところで終わってて・・・。 列車と銃と三角関係っていうと、大好きな『ヴィクトリアン・ローズ・テーラー』シリーズを思い出します。 ジュリアンに想いを告げられないまま引鉄をひいたセシルの姿と、クリストファーが彼女に投げかけた言葉が、心のどこかで重なりました。 「その手でぼくを殺したら、きみはきっとぼくの最期の顔を忘れられなくなる」 ・・・あの状況で、セシルがそんなことを考えていたとは思わない。 でも、これが最期と思ったときに「わたしを忘れないで」と願ったセシルとクリストファーとは、やっぱりそんなに変わらない気がするんです。 そんな風に根本的に変わらない二人が、大きく人生を違えてしまったのは、愛してくれる人の有無なんじゃないかなって思う。 家族に溺愛されて育ったセシルと、その雰囲気を1ミリも纏っていないクリストファーと、愛情とビジネスの区別がつかなかったジュリアンと。 何事もなければ決して交わらなかった3人の出会いに、どんな意味があったのかな? 最終巻が(本当にっ)待ち遠しいです!!


ところで、「あとがき」で久賀さんが「ヴィルヘルムの即位がいつなのかを把握することで物語の読み方が変わる」と書いてらっしゃいますが、ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世の即位は1888年です。 めずらしく私の世界史教員免許が役立つ豆知識w(笑)。 トラファルガー広場の血の日曜日事件が1887年11月、作中はクリスマスなので12月、つまり翌年には即位することになるんですね。 しかも、尊敬する祖父と、疎んじた父を、相次いで亡くして。 両者とも病に倒れるわけですが、もしかするとクリストファーの暗躍があったりする…? 史実と物語の共鳴作用はとても好きな分野なので、久賀さんがどのように調理してくれるのかも楽しみだったりします。 あ! 楽しみといえばもう一つ! 暗くなりがちな今作の中で、ジェフリー兄とアメリア嬢の出会いだけが明るい要素でした。 アメリア嬢が予想外にラブコメ体質っぽいのも嬉しかったです☆(笑) 





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