斎藤けん 『さみしいひと』 の感想

さみしいひと
『さみしいひと』


斎藤けん

白泉社 花とゆめコミックス

2014年6月10日 第1刷発行/¥429+税





『 そうやってお母さんが泣くから 私が 泣けない……! 』


<ご紹介>
『AneLaLa』に掲載された4話からなる全1巻。
幼い頃に父と弟を失くし、ひとり残った家族として母から絶対的な依存を受けることになってしまった倫子。 彼女は、泣きながら精神的にしばりつけてくる母への複雑な感情から泣くことができなくなってしまい、まるでその反動のように、泣いているひとを放っておけない。 入社したばかりの会社で同期をかばってクビになった倫子は、その帰り道で静かに涙を流す美しい女性と出会う。 その人を放っておけず声をかけたところ、ピアニストを志す彼女の弟を守って欲しいと願われてしまい・・・!?




<感想>
斎藤けんさんらしい、繊細なお話でした。 タイトルと表紙からも、軽めなお話でないことは分かっていたはずなのに、読み進めるうちに重さが増していく感じで……今ちょっと私も弱ってるときなので(笑)、もうちょっと元気なときに読めば良かったのかもしれない。 共感する部分もあったのですが、そんな自分に対して軽いショックを感じたのも事実です。

私が感じ取ったテーマは「共依存」でした。 そしてその中心として描かれたのが、「母と子の共依存」。  ……これ、気持ち分かっちゃうんですよね…。 私と母の関係は悪くなく、むしろ良好だけど、私はこれが軽い共依存の結果であることに気づいてはいます。 あまり考えたくはないので詳細は省くとして、私は母が求めた大部分を受け入れて生きているのは事実だし、そんな私の無意識に従順な部分を反面教師とした妹が、本当に自由奔放に生きているのも事実です。 あの子は賢く、正しく、強い。 いつも日記でネタにしてたけど(笑)、憧れる気持ちも大きいんだよなぁ・・・。 


まぁでも我が家は軽くて、どこのご家庭でも多かれ少なかれある類のものなんですよ? そんな私でも暗くなるんだから、つまるところ要するに、斎藤けんさんはそういうひとのトラウマみたいな感情を引きずり出すのが上手いのです。 悔しいくらい、ずるずるといろんな思考を誘発するんです。 それが、素晴らしい。 私はヒロインの倫子ちゃんに本当は1ミリだって共感したくなかったのに、分かってしまう気持ちがあったし、そもそも「共感したくない」なんて汚いことを考える自分にだって気づきたくなかった。 泣いている人を放っておけないといえば聞こえはいいけど、どうみても流されているだけにしか思えない倫子ちゃんを、身近に感じたくなかった。 大した覚悟もないくせに「私に任せて」なんて口走る彼女にイラっしたくなかったし、他人を守ることで自分を守ろうとする防衛本能を否定したかった。 でも、ぜんぶ出来なかったんです。 どれもちょっとだけ、知ってる気持ちだったから。 それに、「情緒豊かで、行き場のない想い」を抱えているのは、倫子ちゃんも同じなんだと思ったから。


倫子ちゃんとお母さんのことをいえば、依存は解消されたとはいえないけれど、分かり合おうとする気持ちを抱けたのかなって。 現状がおかしいんだってことを、お互いが傷ついて思い知ったからこその結論なので、厳しいけれど良かったんだと思います。 ホテルに倫子ちゃんの所在確認をしてたのがまさかの実母ってあたりで本気で怖かったんですけどね・・・あれは物語的に篠宮の母だろうというミスリードが上手かっからよけい怖いわけで、その辺やっぱり斎藤けんさんは上手い。 篠宮の母は……あのひとは「他人を理解しない」ことで自分を守ってるんだろうな。 自分の意に沿わないひとを切り捨ててしまえば、自分の世界で正しいのは自分ひとりということになる。 その状態を、倫子ちゃんは「どこまでいっても一人ぼっち」と称したんだろうけど、たとえば倫子ちゃんは母を、篠宮姉は弟を、という風に「自分以外の人を」守りたかった結果として共依存に陥ってしまったわけだけど、篠宮母が守りたいのは自分自身。 だから依存ではなく、支配になった結果が……「一人ぼっち」。 私が作中で一番さみしいひとだな、と感じたのは、そういう理由で篠宮母です。 でも、さみしくないといいなとも、思うのです。


依存、という言葉をたくさん使ってきたけれど、私には諒くんの倫子ちゃんへの恋心も、正直恋とは思えないんですよね…。 個人的には年下少年が年上の女性に恋をするシチュエーションは大好物なので、ぜひ頑張って欲しいんですけど(笑)、何となく「それって依存なんじゃないの?」という気持ちはまだ拭えません。 でも、今までお姉さんがしてくれたことを倫子ちゃんが……他人がしてくれたっていうのが、何よりも尊くて、何よりも嬉しかったんだってことはよく分かる。 そんな女の子に惚れた(と感じ)ちゃったんだから、そりゃー強敵だよねって感じで巻末のおまけマンガが爆笑です(笑)。 あの調子の彼がピアノを弾いたら、「情緒豊かで、行き場のない想いを紡ぐような」旋律は、どんな風に聞こえるのでしょうか。 もう、涙を誘うようなさみしい音ではないはず。 今までより、温かい愛情と、ほんの少しでも強さを持った音が響くような気がしてなりません。 そういう意味では、あのおまけマンガを含めて1冊の物語だったと思います。 最近鈍くなっていた感受性を刺激してくれるようなお話でした。 ありがとう。





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NKさんへ

>NKさん

コメントありがとうございます。
仰るとおり、タイトルが作品のすべてを表しているような、シンプルなタイトルです。
タイトルってキャッチーさも大切ですけど、本質をつかんで貰うという意味でも大切ですもんね。

>私も最近心理学にハマっているので、とても興味深い内容です。

そうなんですか!心理学って難しそうなイメージです。NKさんはいつも興味の幅が広いですよね・・・すごい。
共依存という意味を私も厳密につかめているわけではないんですけど、一応軽く調べてから使っています。

頼りにする、ということと、依存する、ということは全然別です。別ですけど、難しいところもあるんだろうなと・・・。

>スナフキンは「あんまり誰かを崇拝すると、自分の自由を失うよ」

さすがスナフキン・・・恰好良いぜ!
自分を滅するほどに相手にのめり込んではいけないですよね。
肝に銘じましょう!

No title

シンプルなタイトルですね。これも読んだことがないのですが、なんとなく内容が伝わるような感じがします。悲しそうなタイトルですね。いや、シンプルだからこそ伝わりやすいような感じがします。
愛する家族を失う。よくあることですが、泣ける話ですね。

そうそう、最近話題になっている共依存、私も最近心理学にハマっているので、とても興味深い内容です。
ちょっと難しいのですが、共依存とは特定の人間に依存して、自分の存在意義を認めてもらおうと、その人にとことん尽くすことをいうそうです。もっと簡単にいってしまえば、誰かに必要とされることで自分の存在意義を見いだすことです。例えば、DVの夫(または恋人)から離れられない女性がよくいますよね。あれは「あの人、私がいないと生きて行けないの・・・」という思いがあるからだそうです。あれも共依存の一つだそうで。
気持ちはわかるのですが、いくら寂しいからといって誰かにすがり続けることは決していいこととは思えません。それに相手も迷惑ですし。

ちょっと意味は違うとは思いますが、ムーミン(懐かしいな)のスナフキンは「あんまり誰かを崇拝すると、自分の自由を失うよ」といっています。私はスナフキンではありませんが、誰かに依存し続けていると、自由を失うだけではなく、大切なものが見えなくなってしまうと思うんですよ。
記事とは関係ないのですが、今年は確かムーミンの作者の生誕100周年だそうで。
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