宮野美嘉 『王宮呪い師の最悪な求婚』 の感想

王宮呪い師の最悪な求婚
『王宮呪い師の最悪な求婚』



宮野美嘉
(イラスト:くまの柚子)


小学館ルルル文庫
2015年2月1日 初版第1刷発行/¥580+税





「ずっと言おうと思っていたことがある。エレイン……うちの子にならないか?」
その途端エレインは眉を寄せ、周囲の班員達はざわっとした。
うちの子……? とは、どういう意味だろうか……?
「二年間会えない間、ずっと考えてた。僕はエレインのわがままを叶える人間になりたいんだ。ほしいものなら何だって手に入れてあげるし、お願い事があるなら何だって聞いてあげるよ。だから、うちの子にならないか?」
丁寧に言葉を重ねられ、エレインは愕然とする。それってまさか――。
「私が貧しくて可哀想だから、情けをかけてやろうというんですか!?」
キッと目をつり上げたエレインに、ラキスヴァデリは小首をかしげる。
「いいや、僕はエレインの抜けてるところがすごく好きだ――と言ってるんだよ」
「……悪かったですね、馬鹿で。私は先輩のそういうところが世界一嫌いです」


<感想>
最初にタイトルを見たときに「呪い師」を「の、のろい師・・・?」と読んじゃったのですが、「まじない師」です。 いえ「呪い」は「のろい」とも読むので間違いじゃないけど、私もできれば少女小説のタイトルは「のろい師」じゃない方がいいです(笑)。 藁人形と五寸釘とかじゃない方がいいに決まってる! というわけで「まじない師」です。 ・・・と分かってても「のろい師」って読みそうになっちゃうから思い込みって怖いです(笑)。





さて。 この作品でいう「呪い師」というのは、薬草や呪術陣をつかってまじないを行う職業のこと。 ヒロインであるエレインは新米の王宮呪い師。 天敵ともいえる大嫌いな天才呪い師・ラキスヴァデリ先輩の補佐を命じられたことで、彼を踏み台にして出世してやる!と意気込むものの、掴みどころのない暴言を吐いてくるラキスヴァデリに「世界一嫌いです!」と切り返しちゃうようなキリっとした女の子です。 ある日王宮に、噛まれると愛する人の記憶だけを失ってしまうという「忘却の蛇」が出現。 調査をしていたエレインが噛まれてしまい、一体自分は誰を忘れてしまうんだろう?――と考えるようになる流れでした。 


私はそれはもう宮野美嘉さんのつむぐお話が大好きで、デビュー作(だと思う)の『幽霊伯爵の花嫁』(⇒感想はこちら)で描かれたヒロイン・サアラの型破りな女っぷりにメロメロになったのですが、それと同時に、作中に見え隠れする死生観のようなものも独特で良いな、と思っていました。 生死とか、善悪とか、愛憎とか、そういうものの「境界」の描き方にちょっと独特なブラックさというか斜め上な歪みを孕んでいるんだけど、でも全て愛ゆえの歪みだという究極の純粋パワーを感じる作風が、画一的になりがちな少女小説の中でも群を抜いてると思うのです。 
私は本当にそれが大好きなんですけれども、今回の作品はそういうブラックな部分をほとんど封印してあるのが特徴。 なぜかエレインにだけは暴言を吐いてしまうラキスヴァデリと、その暴言が口説き文句だと全然気付かないエレインの鈍感さで成り立つ、すれ違いラブコメディなのです! あぁ何て素敵な響きなのでしょう!(笑) 私はずっと宮野さんのラブコメが読んでみたかったのでとても幸せでした。


宮野作品は、ヒロインがいつも素敵です。 今回のエレインもラキスヴァデリの「褒め言葉」を引用すると、ハゲタカみたいに獲物を狙う姿が凛々しく、子豚みたいに愛くるしく、どんな境遇でもあきらめない不屈さがゴキブリみたいで逞しい、そんな女の子です……………って、やっぱりもラキスの比喩はおかしすぎるっ!!(笑) エレインはホントに可愛いんです! 世界で5人しかいない解析眼の持ち主であるラキスヴァデリに怯まず突っ込んでいく強さも、ラキスヴァデリがエレインホイホイ(笑)のために敢えて置き忘れるぬいぐるみを律儀に回収してきちゃう鈍さと優しさも、親友を庇うためにスカート脱いじゃう豪胆さも、妹が大好きで仕方ないところも、……世界を愛せない自分をとことん嫌っているところも、もう全部が可愛い。 私にはラキスのような解析眼はないけれど、エレインがきりっと前を向いている姿はすごく伝わってきました。


個人的には妹のミシェルとのやり取りが好きです。 このシーンのくまの柚子さんのイラストがとても素敵で、他のイラストのエレインよりもあどけない表情をしていて、あぁこれがこの子の「素」なんだなって思わせてくれました。 普段は出世のために肩肘をはって生きているエレインの、一時の休息。 でもその休息さえちょっと切なくて、エレインは泣かなかったのに私の方が思わず泣いちゃって・・・だから、ラキスヴァデリが迎えに来てくれてすごく良かったです。 泣けないエレインに気付いてくれる人がいることが嬉しくて、結局また泣いちゃったんですけどね。


そんなラキスヴァデリさんも、周囲からは解析眼を持つ天才で、でも変人で、でも天才だから厄介で・・・みたいに思われている人。 でも、彼的には自分のことをエレインを好きなだけの普通の男だと思ってるんですよね。 エレインがいないところで班員さんたちにエレイン好き好き話(笑)をしているところとかすっごいツボでした! 今作のコメディ要素はほぼラキスが担ってくれてるわけですが(そして彼のコイバナにひたすら耐えて心中でツッコミ入れてくれる班員さんのおかげでもあるw)、「何で本人の前でそれが言えない!?」っていうくらい愛あふれる惚気話に、盛大にニヤニヤさせていただきました♪ そして、そんなに大好きなのにエレインには全然伝わらないっていう!!(笑) 後半、それまでの鬱憤(?)を晴らすかのような怒涛の口説きには本当にドキドキしたし、エレインが弱っているときの甘やかし方からは愛情しか伝わってこなくて、この人どこが変人なんだろう、ものすごくまっすぐに人を愛せる人なのにな、って思いながら読んでました。 本当は、誰よりも愛情深い人。 キスシーンのイラストも綺麗で見惚れました。


エレインが、ラキスヴァデリの本当の才能は解析眼なんかじゃない、と思うのと同様に、ラキスヴァデリもエレイン自身が気付いていない彼女の魅力に気付いている。 二人を見ていると、自分で自分を知ることは難しくて、誰かの目を通すことで初めて見えてくるものがあるんだろうな、と思います。 エレインにしてもラキスにしても、自分が知っている自分と、相手が見ている自分は少しだけ違う。 でも、その「少し」が実は大切なんだと思うのです。 エレインが知っているエレインは、世界のいろいろなものが嫌いで自分が嫌いな女の子だけど、ラキスヴァデリにしてみれば彼女が嫌っている世界に挑んでいくその姿こそが凛々しく映る。 それこそ、世界以上に彼女を愛してしまうほど価値があるんですよね。 ・・・だから人間って、ほんのちょっとだけ自惚れてもいいのかなぁと思うのです。 そうやって誰かが自分を少しだけ肯定してくれることを、誇って良いと思うのです。 特にエレインにはそれが必要! 世界を愛する能力を持つラキスヴァデリと妹さんから愛されていることに、もっと自信持って良いんだよって、ずっと伝えたくてうずうずしながら読んでいました。 


中でも一番好きだったのは、弱っていたエレインが覚醒してからの流れです。 エレインをもっと甘やかしたかったラキスの気持ちも分かるし、何よりも、彼を忘れたくない一心で弱い自分とさよならしたエレインが凛々しくて! そんなエレインに惚れ直したラキスも好きだし、そのあとの公開告白(笑)とかホントときめきます。 あれ、あまりの甘さに砂吐きそうになってる班員さんの立場で私も見たかったなー(笑)。 物語序盤でラキスヴァデリが贈る「うちの子にならない?」が作品タイトルでもある「王宮呪い師の最悪な求婚」だと思ってたんですけど、この流れでまさかエレインからも「最悪な求婚」が繰り出されるとは! 何なの君たち、うちの子うちの子って(笑)。 でもそれが二人の口からつむがれると途轍もなく甘く響くから不思議です。 プロポーズしては振られるところまでが愛情表現だっていうややこしさも愛しい。 だって、振られているうちはお互いに負けたくないって思ってるってことだもの。 個人的に恋には相手への尊敬が含まれて欲しいと思っているので、エレインとラキスには、お互いが飽きるくらいに競い合って尊敬しあいながら恋を育てて欲しいです。 最終的にどちらのうちの子になるのかをずっと楽しみながら付き合っていってくんだと思います。 その間、班員さんたちはずっと砂吐きながら耐えるんだろうな(笑)。 




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