映画 『虐殺器官』 の感想




『 地獄は、頭の中にある 』


<感想>
テロ対策として、個人情報や自由と引き換えに徹底的なセキュリティ管理社会へと移行した先進国。 その中核、アメリカ情報軍のクラヴィス・シェパード大尉は、世界各地の紛争首謀者を暗殺するミッションをこなしている――その頭脳に「感情適応調整」という技術を施した、究極の精鋭として。 そんな彼に舞い込んだ、ジョン・ポールという言語学者の暗殺司令。 ジョンが訪れた後進国では100%の確率で内戦が始まり、大量虐殺が生まれていく。 徹底したはずのセキュリティにも引っかからず姿をくらますジョン・ポールは、どのように虐殺を生み出しコントロールしているのか? クラヴィスは仲間と共にプラハに渡り、ジョン・ポールと接触したルツィアという女性に出会うのだが……。


映画『虐殺器官』、初日のレイトショーで観てまいりました! これで『Project Itoh』と銘打たれた劇場アニメ三部作、『屍者の帝国』『ハーモニー』『虐殺器官』はぜんぶ見れたことになります。 はるばる遠距離通勤しているメリットが生かされたのホント嬉しい!(田舎の映画館では上映していない・笑) 三部作はどれも金曜日が公開初日だったので、疲れがちな金曜日でも「映画見るんだから頑張れる!」と仕事に望めたのもありがたいです。 私はつくづくアニメが元気の源なんだなーと思わされました。 ありがとう二次元!(笑)。


さて『虐殺器官』。 原作も未読だし、パンフレットも買ってませんし、映画もさらっと1回見ただけなのでいろいろ間違いもあるかもしれないけれど、感想をメモ的に残しておきたいと思います。 
総括的な感想を言えば、面白かった! 哲学的・思想的要素が強い物語と、それを裏付けるに十分な作動画、そしてキャスト陣の演技。 どれも見応えがありました。 ただ、「ちゃんと理解してる?」となると、「いや、たぶん分かってないな!(断言w)」となります(笑)。 なかなかに難しい作品だな、という印象ですが、小難しくて興醒めだよ、とはならななかったんだから、やっぱり面白かったと思います。 これは仕上げるの大変だっただろうなー。

ところでインターネットの力は絶大で、公開初日だったにもかかわらず、私が見る時点ですでに「原作のある重要なエピソードが省かれているのでストーリー的に物足りない」みたいな話が出ていました。 そもそも原作を未読だったので省略そのものには問題ないのですが、そんな重要な話が入らないのは二時間という尺に収めるため以外に理由が思いつかなかったので、頭にはいれておこうという気持ちで望みました。 


のですが。 見ながら感じていたのは、「なんだこの情報量の多さは!!」ということでした。 ちょっと誰よ物足りないとか言ってたの、十分だよ!(笑)。 いやもちろん、薄味だと表現されたのは情報量の問題ではなくて感情移入的な盛り上がりのことなのでしょうが、個人的には、徹底的にフラットに設定されていたはずのクラヴィスたち同様、作品そのものにも「感情適応調整」を施したようなフラット感を持たせたかったのかな?という印象も受けました。 基本的に物事が淡々と進んでいきます。 目の前で人が死のうと。 戦友を打ち殺そうと。 アレックスの射殺に対しても周囲からの評価はおおむね「よくやった」的な感じにフラットで、人間の合理主義って残酷なのだということがさらっと描かれているような気がしました。 

情報過多になった原因は、たぶん前述したエピソードの削除にあるのでしょう。 今回省いたエピソードの代替足り得る何かを補完する必要が生じ、それを視覚ではなく文章、つまり「セリフ」で補おうとしたために、ものすごいセリフ量になったんじゃないかなって。 これは見る側に膨大なセリフを頭の中で処理することを強いるわけで、なかなかにハードル高いです。 もうちょっと作画の力に頼る形で整理した方が良かったのでは?とは思うけど、素晴らしかったのは主役の中村さんとラスボス(笑)の櫻井さんの渾身の演技。 お二人がすさまじいほどの「説得力」を乗せて喋ってくださるので、一歩間違うとただの言葉の羅列になってしまいそうなセリフが、きちんと「情報」「感情」として伝わってくる。 これがクラヴィスたちが感じ、考え、ぶつけ合った思想の話なのだとよく伝わってくる。 私としては、この演技を聴くだけでも価値があると思いました。 


ただ、物語が合理的に物事が進んでいく中で、クラヴィスがルツィアに示す愛情だけがちょっと唐突だったような。 いや、ルツィアさん超美人だし知的だしどことなく薄幸な雰囲気だし(ここ重要)、惚れるのに文句はまったくないのですが、いつの間に?という疑問もぬぐえない。 で、ちょっと思い出したのが、クラヴィスがジョンに捉えられた時に、何らかの文法を使われていたっていうこと。 まったくもってうろ覚えなんですけど、虐殺器官を刺激されたのかと怖れるクラヴィスに対して、感情だか本能だかに作用するだけの生ぬるい文法だよ(超意訳)、的なことを言っていたので、もしやその文法がスイッチだったのかなーとか勝手に想像してました。 もしそうだとしたら、恋ってそんな風にあっけなく生まれてしまう、ごく生得的な感情だということです。 虐殺器官と同じように。 人間には、いろんな可能性が秘められているわけです。


ところで私は「ファム・ファタル」という言葉の意味を「運命の女(ひと)」という認識でいたのですが、ウィリアムズがルツィアをさして言った「ファム・ファタル」は何か意味が違いそう、と思ってたら――「男を破滅させる魔性の女」。 こっちか! 一目で見抜くとかウィリアムズさん恋愛経験どれだけあるの!?とちょっと楽しくなりましたが(笑)、結果的にこの評価は正しかったわけですよね。 クラヴィスもジョンも、結局は彼女の「言葉」を大切にしたからあの選択に至ったわけで。 もっといえば、妻子を失った直後のジョンをルツィアが救った一言がなければ、世界の現状はもっと違ったかもしれなくて。 そういう意味では、二人にとってのルツィアは「男を破滅させる魔性の女」なのではなく、やはり「運命の女(ひと)」だったのだろうと思うのです。 たとえ、世界を狂乱にひきずりこむのだとしても……。 そんな訳で、クラヴィスとジョンの共闘ともいえるあのラストは私の中ではとても自然な流れでした。 たぶんあの瞬間、世界中で二人にしか理解できないロジックがあったんじゃないかなって。 


人間には虐殺をつかさどる器官が存在する。 そして、その器官を刺激する文法も存在する。 文法は頭の中で生まれ、生まれた文法により虐殺器官が活性化され、現実世界は悪夢と化す――まるで地獄のように。 ラストで暗示される狂乱の世界は「頭の中で」作られると言い換えることも出来るわけで、私にはアレックスの「地獄は、頭の中にある」という言葉がある種の予言のように思えてなりませんでした。 アレックスについてはもっと象徴的に描いても良かったんじゃないかと思うのですが、それでも彼のあの言葉に世界が集約されていく構図は、なんとも言えず凄かった。 ジョンに「戦闘に物足りなさを感じている」と指摘されたクラヴィスにとってはこれからこそが本領を発揮する舞台になるはずで……ある意味、誰よりもつよく「虐殺器官」を刺激されたのはクラヴィス自身ということになるんだろうな。 私はその物語を選択する彼を見守ってしまったけれど、願えるのであれば、せめて「子供を殺せますか?」という質問に対して盛大にノーを言える彼になって欲しいと思うのです。


(余談だけど、三部作の中では「屍者の帝国」が好みだったなー。 映像がとにかく綺麗で、世界観としてよくまとまっていたと思うのです。 ちょっとBLな雰囲気もあったけど私は気にならなかった…。 そういえば「ハーモニー」はちょっと百合っぽくて「虐殺器官」はふつうに男女愛? 三部作すごいな… ←ラブコメ脳患者の発想)




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にくさんへ・その2

>にくさん

引き続きありがとうございます!
連投とか全然気にしないので、どんどん語りましょう!

>帰ってすぐこの記事を読んでよかった。
映画見ていろいろ頭の中に感想とか考察とかが渦巻いている大切な時間に、うちのブログに来てくれるなんて、光栄すぎてどうしたら・・・ありがとうです。

>唯一大切にしていたルティアの安全を保障する一番有効な方法
そうですね、もともとクラヴィスの中にルツィアへの淡い気持ちがあることを見抜いたから(というか多分文字通りどこかから見ていたはず)からこそ、彼を選んだのだというのもあると思います。
たとえばウィリアムズにも同じことをしたか?となると、しなかったと思うんですよね。

>この主役三人、完全にアムロ、シャア、ララァの関係だ。
私はファーストガンダム知らないのですが、私の感想を聞いた旦那さんも同じことを言っていました。そうなのか・・・!!

>三作とも結ばれえぬ想い人(同性、同性、人の女)へのレクイエム
・・・こういう言い方したいです。私の本文の書き方がアホっぽいなと我ながら思ってたんですけど(笑)、そう、そういうのが言いたかったのです!さすがにくさんだぜ・・・!!

>生命と自我をここまで描いた作家の存在を誇りましょう
そうですね、そしてそれをこういう形で世に送り出してくださった方々のことも。

あと、そう感じたにくさんのことも、私は誇っちゃいますよ!
ブログに来てくれてありがとうございました。お話できてとても楽しいです。

にくさんへ

>にくさん

コメントありがとうございます!

>作中の世界に耽溺しました。
楽しかったですよね! 私は正直ちょっと難しくて耽溺するまでは行けなかったのですが、本文にも書いたけどすっごく見応えがあって良かったです。

カメラワークで言えば、戦闘迷彩の描き方(どこから敵が来るのか、クラヴィスがどこを見ているのか)とか好きでしたね。
あとは変な言い方ですけど、銃の威力描写。銃圧で人の顔が変形するのがリアルなのか誇張なのか、見たことないから分からないけど、少なくとも威力は伝わってきました。

>主役三人の俳優が、「文法」を使っていたと思わせるくらい
それは私も凄く感じまして、言葉の力、というものを久々に実感させられました。
脚本、世界観の構築、作画、演技がすべて融合していましたよね。

No title

コメント連投恐縮ですが語り切れないので

帰ってすぐこの記事を読んでよかった。
最後まで、シェパードが捕まった時に何の文法を施されたのか、いつ明かされるのか疑問だったのですが、確かに!りるさんの解釈しかありませんね。ジョンポールが唯一大切にしていたルティアの安全を保障する一番有効な方法ですもんね。
ファムファタルは運命の女も悪女も両方の意味を含んでいるようで、「うっかり惚れたら運命を振り回される女」的な感じでしょうね。
ガンダムにおけるララァ・スンのような。

あ、本当にたった今気づいたのですが、この主役三人、完全にアムロ、シャア、ララァの関係だ。

三部作が別々の形の愛というのは同感です。
三作とも結ばれえぬ想い人(同性、同性、人の女)へのレクイエムという図式なのが特徴だと思うので。

映画製作者や我々視聴者からすると伊藤計劃へのレクイエムなんですよね。
生命と自我をここまで描いた作家の存在を誇りましょう。

No title

見てきました、虐殺器官。私も「なんで虐殺機関じゃないの?」というぐらいに事前の情報を持たずに行ったので、理解できるか心配でしたが、杞憂でした。
作中の世界に耽溺しました。SFアニメのいいところだけ抜き出したような映画。
アニメが実写に対し優位なのは「製作者の意図しない存在は微粒子一つたりと画面内に存在しない」こと。実写は「本物の質感をアピールできる」こと。
世界観に耽溺させる全ての小道具を丁寧に描写して、不必要なものはわざと粗くして、カメラワークを最大限に利用して……こんなに作品に没入したの久しぶりです。だから感覚が開いたのか、膨大な情報も素直に脳に入ってきてました。主役三人の俳優が、「文法」を使っていたと思わせるくらい。フィクションを見ている客観性がなくなって、観客としての思考は冒頭に「あ、大塚明夫顔の軍人……やはりCV大塚明夫か」と一瞬思ったくらいで
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