有川浩 『塩の街』の感想

有川浩『塩の街』
『塩の街』

有川浩
角川文庫
平成二十二年一月二十五日 初版発行/¥667+税





真奈は静かに白い壁を見つめた。 ―― あたしはあの人を待つのだから、伝染ろうとするこの白い色になど負けない。 胸の前で祈るように両手を組む。
どうか、あの人が無事に戻ってきますように。
世界なんかどうなってもいい。 あの人だけが無事だったらそれで ―― 他には何も要らない。 欲しくない。 だからどうか、
あの人をください。
あたしにとってすべての意味を持っているあの人を。



<ご紹介>
有川浩さんのデビュー作にして 「自衛隊3部作」 の1作目を、角川で 「再」 文庫化。 本編後の番外編も収録された、待望の完全版です。
「きれいな海に行きたいんだ」 ―― 突然塩が街を飲み込み、人間を塩化死させるようになったある日。 真奈はそう言って行き倒れていた青年を拾った。 真奈の大家である秋庭はそんな彼女を叱り付けるも、青年の願いを叶えるために海を目指す。 けれど真奈は知らなかったのだ。 青年が大事に抱えるリュックに、何が入っているのか。 何を抱えていたのか。 それに、秋庭が何を恐れていたのかなんて…。 その出会いを境にじわじわと様相を変えていく二人の生活。 そして―― 「世界とか、救ってみたくない?」 最後に現れた秋庭の旧友・入江の言葉が、二人と世界の運命を変えるのだった…!!  塩害が進む都会で偶然身を寄せ合うことになった真奈と秋庭が辿る、SF調恋愛ドラマです。


<感想>
ずっと読みたかった、有川浩さんのデビュー受賞作。 私が有川さんを知った頃には既にこの作品の電撃文庫版を見かけることはなくて、単行本ばかりだったんですよね。 何故一番最初の作品が文庫に収録されるのが遅かったのか、その経緯は あとがき に詳しいですが、お陰で長いこと待たされました。 が、この 「待つ期間」 も楽しかったです。 その間に有川さんの他作品を幾つか読んで、私の 「好き」 はピークに達していたので、ここで原点に戻って楽しめるというのは、何だかとても贅沢な行為に思えたからです。 2010年に文庫化してくれてありがとうw


約450頁ほどあるこの 「再」 文庫版ですが、タイトルの 『塩の街』 自体はその半分強ほどの6章構成。 残りは 『その後』 と題された番外編になります。 主人公である真奈と秋庭は最初から登場しているものの、 「幕間」 より前の部分では一歩引いた俯瞰的視点で語られ、後の部分では真奈たちと同じ目線で物語が展開する、という流れがとても印象的でした。


本編前半部分では、何故塩害が起きているのか、塩害がどういう事態を招くのか、そういう説明が全くないまま真奈たちの生活が描かれます。 その在り方はどこか頼りなくて、不可思議な事態に陥っている世界の中でも更にちっぽけな一部分でしかないことを強調されているかのようでした。 世界はそんなに優しくないので、真奈ちゃんの気持ちや 「塩」 の実態を一つずつ手探りしながら読み進めなければなりません。 一体塩害って何なの、真奈たちはどうなってしまうんだろう?  …そんな思いが尽きなくて、気付くとこのちょっと不思議な世界にハマりこんでるからスゴイ。 第1章で、遼一という青年を通して 「塩」 がもたらす哀愁を見せ付けられ。 第2章では塩害による被害がとてもつもなく大きいものだとを見せ付けられて。  その救いようのなさに世界の大きさを改めて見せ付けられる… という演出が前半部分の主軸でした。 


なので、3章で真奈ちゃんが自分の過ちと小ささに気付いたあたりから、心理的描写が一気に増えたのも面白いです。 それまでクローズアップされてたのは世界というマクロなもので、真奈はその中の微小な存在で仕方なかった。 それなのに、入江の登場で物語は劇的に変化し、 「世界を救う」 というマクロさが一気に身近になった途端、今度は視点が真奈たちの内面的な部分に切り替わるんだもの。 秋庭の一挙一動にドキドキしたかったのに、それを邪魔するのが 「世界」 そのものだなんて。 好きな人と一緒にいたいだけなのに、今の世界のままでは一緒にいられないなんて。 そんなジレンマを味わっていくうちにいつの間にか、 「真奈」 も 「恋」 も 「世界」 も全部平等に大きな存在として物語に落とし込まれているですよね。  『優しくする時に怒る』 という秋庭が、怒りながら真奈に触れたこと。 つまりそれは 「優しさ」 そのものな訳で ―― 恋ってこんな大袈裟でいいんだ。 個人の感情が世界に太刀打ちできないなんて嘘なんだ。 二人をみてると、そんな風に感じてすごくドキドキしました。 二人の恋が二人を救って、ついでに世界も救ってみた。 それできっと、全部正解なんだろうな。


ただ正直言うと、対 「塩」 作戦がほとんど描かれていないことはちょっと残念だったな。  『空の中』 『海の底』 のどちらも、敵対する存在との戦い方が魅力的だったので、 『塩の街』 でも期待してたんだけどな…。 でもその分今回は、入江の正論と鬼畜さを織り交ぜた交渉術が面白く読みましたよ!  もしかして素で秋庭のストーカーなんじゃないの?とか、こんな人身近にいたら本気でヤだ!とか、思うところはいろいろあったけど楽しかった(笑)。 秋庭は秋庭で、序盤で真奈ちゃんに 「拾ってくるな」 って言ってたけど、入江といい真奈といい秋庭こそ収集体質なんじゃないのか?とツッコミ入れたりねw(酷!)   ここで終わっちゃうとラブ的に確かに寂しいので、 『その後』 を追加した判断は正しかったと思います。 そっちは甘々のメロメロなお話ばかりで大満足だったんですが (入江編は除くけど・笑)、 一番感じたツッコミはこれでした。  ――秋庭、2年以上耐えて偉かったねっ♪ (←いろいろ台なし!・笑)



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<他作品感想>  
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「その他アニメ」カテゴリにアニメ版の1話ごと感想もあります


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>凪沙さん

こんばんは!! そしてお久しぶりですw
覚えていて貰えて、しかもコメントまでいただいちゃって、ありがとうございましたw
遅くなってしまいすみませんでした。 ちょっと仕事で死んだようになってたので…(笑)。

>私はこの間「海の底」を読み返してみたらすごく面白くて、
>2、3日読み続けていました。

有川さんはイイですよねー。 個人的にはハズレがないです。
『海の底』は潜水艦とご近所という二つの閉鎖空間での人間関係が秀逸で、私も大好き。
閉鎖空間での人間関係といえば、こちらの『塩の街』もそうですね。 

>自分の大切な人に悲しい思いをさせたくないからなんですよね。

引用部分を褒められると私もうれしい(笑)。
でもホントそうですよね。 大事な人が悲しまないような世界を、少なくとも自分とその人の間で築けたら素敵です。 
真奈のように、それ以外はいらないんだと言えちゃうのは若さと傲慢ゆえかもしれないけど、気持ちはそれだけ大きいっていうのが伝わってきて、私も好きなシーンですw

>期末はあと第二外国語が残っているだけなんです。

もう終わりましたか? それともこれから?
ちなみに私はロシア語が第二外語でした。 もう全然覚えてないけど、一番好きな授業でした☆
乗り切れば読書しほーだい!(笑) ご武運をお祈り申し上げますw

りるさんこんばんは。
お久しぶりです。

やっぱり有川浩いいですね。
私はこの間「海の底」を読み返してみたらすごく面白くて、
2、3日読み続けていました。


りるさんが感想で引用した部分、わたしもすきです。
世界がよりよいものであったらいいと思うけど、
なんでそう思うのかっていうと
自分の大切な人に悲しい思いをさせたくないからなんですよね。

有川浩さんはこういう人の根っこの感情をシンプルに文章にしてしまって
すごいなあと思うし、ほんとう好きです。


期末はあと第二外国語が残っているだけなんです。
夏休みは彼女の作品をまたいくつか読みたいなあ…

>emkさん

こんにちは! コメントありがとうございますですー。

>アンソロジーに有川さんの短編が入っていて一目惚れ!

うわ、良いですね。 
私はアンソロジーってあまり手を出さないので、有川さんの短編で読み逃してるの、結構ありそうだなぁ。
とりあえず、一目惚れおめでとうっ!!(笑)

>「好きになった作家さんはまずデビュー作を読む」というマイルール(笑)

おお、しっかりなさってますね。 私はその場の勢いだからなぁ…(笑)。 有川さんも、『図書館戦争』から読んだのですよ。 その後も出版順には全然読んでないなぁ…(大雑把・笑)。

>コメントが言葉足らずだったなぁ、と思い蛇足ながら再度コメントしちゃいました

いえいえ、こちらこそ有意義な情報をありがとうございましたw 私は基本、いつも情報に疎いので(自慢にならない!)、とてもありがたいのです。
またきてくださいねw

りるさん、こんにちは。たびたびすみません。

「『図書館戦争』の有川さん」は気になる作家さんの一人だったのですが、他の作家さん目当てで購入したアンソロジーに有川さんの短編が入っていて一目惚れ!
「好きになった作家さんはまずデビュー作を読む」というマイルール(笑)が『塩の街』を読んだきっかけです(モチロンその後『図書館戦争』全6冊読破しました!)。

電撃文庫版はGW中に大型書店に行った時に棚に並んでいるのを見ました。なんだか先のコメントが言葉足らずだったなぁ、と思い蛇足ながら再度コメントしちゃいました。なのでお返事は結構ですので!
りるさんの近くの本屋さんでも見つかるといいですね。また感想をアップしていただけるのを楽しみにしています。

>emkさん

こんにちは! コメントありがとうございましたw

>わたしは初めて読んだ有川さんの長編が、この『塩の街』でした

そうなんですかw 有川さんの初作を最初に読めたなんて素敵ですねー。
私はやっと読めたクチですけど、すごく楽しめて嬉しかったです。

>電撃文庫版には「塩との戦い」が書かれています。

え、そうなんですか!? うわー、知らなかった。 教えてくれてありがとうございます。
私の家に近くには、電撃版がなかなか見当たらなってしまったのですが、絶対に見つけて読もうと思います!!
emkさんには大感謝w 

りるさん、こんにちは。
わたしは初めて読んだ有川さんの長編が、この『塩の街』でした。
電撃文庫版で読み、角川文庫版も購入しましたが、電撃文庫版には「塩との戦い」が書かれています。秋庭さんの真奈への想いと戦闘機乗りとしての誇りが描かれていて、とても好きなシーンです。
それぞれお好みがあると思いますが、未読ならぜひ!まだ普通に本屋さんで手に入りますので、オススメします。
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