毛利志生子 『夜の虹 灰色の幽霊』の感想

毛利志生子『夜の虹 灰色の幽霊』
『夜の虹 灰色の幽霊』


毛利志生子
(イラスト:増田メグミ)
集英社コバルト文庫
2010年7月10日 第1刷発行/¥522+税




オリガは考えた。トヴェリ通りにある父の屋敷で、くりかえし目の前に現れた父の最後の姿を。 エルツベルガー男爵と笑いあうヤコフの顔を。そして、笑いながらオリガに手を振った馬上の男の姿を。
「・・・やるわ。 もう一度、・・・いいえ、カールさんのくちびるが読めるまで、何度でも見るわ。 だって、・・・これはわたしの唯一の武器だもの」
決意のこもったオリガの言葉に、ロジオンがゆったりと異論を唱えた。
「唯一じゃない。 君は、馬の絵が描ける」
「・・・あら、犬の絵だって描けるわよ」
「猫の絵も」
「そうよ」
「それに、公爵夫妻の自慢の姪だ」
ロジオンの言葉に、オリガは思いがけず泣きそうになった。



<感想>
人間が亡くなる直前の行動を 「残像」 として見る能力を得てしまった少女・オリガが、何かに導かれるように遭遇してしまう事件に悩みながらも、父の死の謎に迫ろうとする物語の第2弾。 何ていうかもう、表紙がツボすぎて大変です!(笑)  キョトンとしたオリガが絶妙に可愛く、優しく支えるロジオンの表情 (と制服と制帽と手袋!・笑) にドキドキしてしまう。 うおー今回も楽しみだぜ! と思ったら、何と本文には挿絵なしというあんまりな現実…っΣ( ̄□ ̄;)  今作唯一の不満はそこでしょう、そこしかないでしょうっ!! というくらい内容には満足だったので、そこはホントに残念でした… 次回は必ずお願いします! (切望っ)。 
あ、感想ちょっとネタバレっぽいので、「続きを読む」 以下に収納しますねー。


8年前に突如失踪したオリガの父親。 しかしオリガは、父は失踪したのではなく誰かに殺害されたことを 「残像」 で知った。 死の真相をロジオンと共に探り始めたある日、父の旧友・エルツベルガー男爵から屋敷への招待状が届く。 唐突な再会を訝しむ気持ちは、飼い犬や友人・ヤコフに対する男爵の優しさによって霧散したものの、親交を深める間もなく男爵は何者かに惨殺されてしまう。 しかも犯人として逮捕されたのは、ユダヤ人というだけで謂われのない嫌疑をかけられたヤコフだった。 彼の無実を信じて調査を始めたオリガは、エルツベルガー男爵の前に死んだはずの父が現れたという証言を得る。 そしてオリガ自身も、不気味な笑みを湛える、父と見紛うほどよく似た男に出会ってしまい ―― !!




今回も事件部分に読み応えがあって、すごく面白かった!! 壁に貼り付けにされた死体、遺品に仕掛けられた秘密、いなくなった高級犬の行方 ―― そして犯人に語りかける男爵の 「残像」。 ミステリ好きの嗜好をくすぐる魅力的な謎が満載で、読んでも読んでも飽きない感じ。 前作に引き続き、ロシアの社会制度 (今回は裁判や商業の仕組みについてでした) が内包する瑕疵をさりげなく描いてるだけでも興味深いのに、今回はそこに人種差別問題も加わっているため、物語に厚みがあるある!! どんな善良な人でも 「ユダヤ人だから」 というだけで偏見を持たれ、情報操作によって冤罪を仕組まれるほど嫌悪されてしまう。 ヤコフの裁判の酷さは読んでるだけでも悔しかったなぁ!! だからこそ余計に、男爵が公正さを持ってヤコフに接していた優しさが際立ち、じっとしてられなくて事件に首をつっこんでしまうオリガの気持ちがよく伝わってきました。


とはいえ、そんなオリガを心配してしまう男性陣の気持ちも分かるんだよね。 何たってオリガ可愛いし!!(笑) アーサーって前作の印象が薄くて、オリガへの気持ちを量りかねてたんだけど、 『ねぇアーサー。あなたはどう思ってる?』 『君のことを?』 なやりとりや、 『かわいくお願い』 に白旗な様子を見ると、結構本気なのかな?  猫っぽいオリガにアーサーの束縛は似合わない気もするけど、意外な微笑ましさがありました。


一方のレオニード。 彼もオリガが事件に関わるのを良しとしてないけど、『助けるのは面倒』 と言う割りにはピンチに必ず登場するし、宗教学の講師から猫探しまで担当しちゃうし(笑)、その面倒見の良さには思わず惚れそうですw  気になるのは、レオニード自身もこの事件について 『私的な感情からいろいろ調べた』(183頁) と言及している点。 皇帝陛下第一主義の彼が 「私的」 な感情で事件に関わるなんて驚きです。  『マロフェエフ夫人には恩がある』 とも言ってるし、別ルートで何か探ってるのかな?  それがオリガに関することなのかは不明だけど、とりあえず、ラストのオリガへの 「贈り物」 が 『健康になりたければ魚を食べろ』 という諺 (28頁) の実践だっていうのが可愛すぎる!(笑) 気にしてるのは確かみたい。


とはいえ、やっぱりオリガにはロジオンでしょう!!(笑) オリガの意思を優先しつつも 「約束」 は譲らない彼が、一番相性良いと思うな。 そういえば、読み始めてすぐ感じた違和感が、オリガが未だに 『ヤーシュヴィン副署長』 って呼んでることでした。 地の文が 「ロジオン」 表記だから、彼女も名で呼んでると錯覚してたみたい。 そうなると俄然注目したくなるのが 「いつオリガが名呼びするのか」でした。 なので、希望が叶ったラストにはもうニヤニヤが止まらずw  彼の夢を見たり (犬だったけど…)、ピンチに顔を思い浮かべたり、オリガのロジオンに対する感情はずいぶんと色鮮やかですね! これはタチアーナじゃなくても目を輝かせるってもんです(笑)。 ロジオンがそのフランクな態度に反比例するかように騎士的役割に徹していたのがもどかしかったけど、その分ラストの 「お誘い」 にはドキドキしました。 これって何、何のフラグ!? ロジオンのことだから意外と何でもないかもしれないけど、いろいろと期待が増すってもんですw


…でも今回一番衝撃的だったのは、偏見や正義感・愛情といった人々の感情が、すべて一人の男の掌の上で転がされていたという点でしょう。 にっこり笑顔で相手を信用させて悪夢を紡ぐ、まるで性質の悪い夢魔のようなあの男。 エルツベルガー男爵の事件も、今となってはオリガに見せ付けるために犯人を焚きつけたようにしか思えないもの。 本来、何物にも代え難いはずのヤコフの純情やタチアーナの躊躇いを、簡単に踏みにじれる精神が恐ろしくて仕方なかったです。 叔父と名乗ったからにはオリガの父の弟だろうけど、外見が酷似している点と目上の (はず) フリードリヒを呼び捨てにすることから、双子なんじゃないかと予想。 でもヘルムートって、ラスボスっぽいけど 「犯人」 じゃないんだよね。 つまり物語にはもう一捻りある訳です。 オリガを巡る (?) 四角関係といいフリードリヒの死の真相といい、どこに転んでも注目せずにはいられない展開になってて、完成度には目を瞠るばかりです。 とにかく次作が楽しみ。 期待してます!

・感想拝読しました・・・『ある休日のティータイム』


Loading...

>fallcloverさん

こんばんは! コメントありがとうございましたw

>思っていたよりも早く

そうなんです。 本当はこの前に別作品を読んで感想を・・・と思ってたんですけど、
いやここで放置しちゃうとまた書けない!と思って続けて頑張りました(笑)。
ご期待に応えられて(?)よかったですw

>正直なかなか読むのが大変でしたが、でもそれもまた「歴史物」の面白さかな…

全然知らない土地について読むんですもの、難しいですよね。 そんな中で一つでも魅力的だと思えるものに出会えれば充分だと思いますよw 私も日本史は苦手ですし・・・。

>まるまるレオニードのお話でしたよ。

そうだったんですね! コバルトはこれだから気が抜けない!(笑)
ロジオンの話も短編で既出って1巻のあとがきに書いてありましたし、もしかして次はアーサーの読みきりが載るんじゃ・・・。

>オリガのロジオンへの呼び方、違和感がちょっとあったのですが

ありましたよね? ヤーシュヴィン副署長って長々しいなぁと思ってたんですけど、おかげでラストで一気に距離が近づいた気がしました。
でもあれですよね、シャーロックなんて何度「シャーロックさま」「シャーロックでいい…」のやりとりをしたことか・・・!(笑)
そう思うと、オリガとロジオンはやりとりがスムーズですね。

こんばんは♪

りるさんの最新刊の感想、思っていたよりも早く拝めて、嬉しいです♪
ロシアの歴史事情、世界史は適当にしか勉強してこなかった私には、正直なかなか読むのが大変でしたが、でもそれもまた「歴史物」の面白さかな…と実感した思いでした。

さて、レオニードの裏事情…そうか、本編には載っていませんでしたっけ。
雑誌の最新号(恋のドレスの中編が載っていた号)に掲載されていた短編、まるまるレオニードのお話でしたよ。
彼の過去話、うっかり別の人間か…と勘違いしてしまったほどに、意外な感じでした。境遇も、性格も。
マロフェニフ夫人は、彼の大恩人と言ってよいかと。
これは、いつか文庫にまとめられる…のかな?

オリガのロジオンへの呼び方、違和感がちょっとあったのですが、りるさんの感想で「そういうことか」と納得しました。
気づかせてくださって、感謝です♪
Secret

☆Web拍手ボタン

押して頂くとりるがハリキリます(笑)

☆カテゴリ

☆サブカテゴリ (タグ)

 

☆最新コメント

☆リンク(おすすめサイト様)

☆アクセスカウンタ

QRコード

QRコード

RSSリンクの表示

アクセス解析

関連記事Loader

[猫カフェ]futaha

全記事表示リンク

全ての記事を表示する

☆検索フォーム

☆購読予定一覧

☆アニメDVDの人気ランキング

☆更新日カレンダー

プルダウン 降順 昇順 年別

09月 | 2017年10月 | 11月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -


☆オススメ