樹なつみ 『デーモン聖典(サクリード)』全11巻 の感想

デーモン聖典11

『デーモン聖典(サクリード)』 全11巻

樹なつみ
白泉社花とゆめコミックス







『 おれはうれしい。 おまえが「鎖」で うれしい 』


<ご紹介>
2003年~2007年まで白泉社 『LaLa』 にて連載されていた作品。 2010年7月に白泉社文庫版1・2巻が刊行されました (3・4巻は9月発売)。
逆行症候群 (リターンシンドローム) を発症したものは一瞬にして消滅する―― その恐ろしい症状を引き起こしているのは、デーモンと呼ばれる霊的存在。 異次元から地球へやってくるデーモンは、彼らにとって絶対的存在である 「鎖」 を探すために人間に触れるのだが、何百万分の一の確立でやっと見つかる 「鎖」 以外の人は不運にも消滅してしまうのだ。 世界で唯一の例外は、小井草りな・もなの双子だけ。 母親の胎内でデーモンと二次接触した特殊な例であり、もなは母譲りの 「鎖」 の能力を発現させ、りなは逆行症候群を患ったもののゆっくりとした退行で済んでいる。 しかし、いつ赤子にまで逆行してしまうか分からないりなのために、もなは 「鎖」 として命賭けで最上位クラスのデーモン 「K2」 を召還するのだけど…!?  人間とデーモンの愛憎が入り乱れる、スペクタクルロマンです。




<感想>
7月に発売された 『デーモン聖典 (サクリード) 』 の文庫版、その推薦文は今をときめく (?) 冲方丁さんでした。 曰く、 『 目を剥くほどの完成度 』。  連載で読んではいたけどあまり覚えてない…… でもその 「完成度」 という挑発に興味を惹かれてつい中古書店で1巻を読んでみたら、もうページを繰る手が止まりませんでした! うわぁ何これ、こんなに面白かったっけ!?  この作品は連載よりもまとめ読みした方が良さが際立つタイプなのかもしれない。 続きを我慢できず、結局ブックオフ3軒廻って揃えました(笑)。 そして全11巻を読み終えた今、推薦文の正しさを実感してるところです。 細かい設定がたくさんあるんだけど、隅々まで無駄なく整っている。 とても読み応えのある作品でした。


お話としては、双子のもな・りなとその保護者・忍、デーモンのK2とミカ、そして忍が畏怖する兄・ヘルムートを中心に進みます。 何千という長い時間を生きるデーモンは、どれほど己の生に飽きても自分で死ぬことが出来ない。 他のデーモンに食われるのが普通だけど (共食いなのです)、 唯一、 「鎖」 の中でも特別な存在 「聖典(サクリード)」 から愛の言葉を貰えれば、とてつもない幸福 (恍惚) な死を迎えることが出来るらしい。 デーモンはその伝説を信じて 「鎖」 を探すし、人間は彼らを悪役にすることで世俗的な権力を握ろうとする。 いろんな人達がいろんな思惑の元で動いてるので、物語を動かしているのは誰の意思なのか、そして何をどれほど強く願っているのかが見えず、思わず奥を覗きたくなる作り。 展開がどんどん広がるのは、さすがの手腕でした。  このちょっと異色な作品を掲載してた 『LaLa』 の懐の大きさもイイですね!(笑)


人間が欲するのも、デーモンが欲するのも、共に愛。 最愛の人から如何にして 「愛」 を得るか―― いろんな風呂敷を広げてるけど、これはそういう物語でした。 K2がもなちゃんに構って欲しくて連発するワガママも、赤竜が 「鎖」 に求めた憎しみも、どちらも同じ 「愛」 という泉から湧きでた気持ちなのに、何故こうも違うんだろう? 明るく溌剌とした前者と。 苦味だけが残る関係にしかなれなかった後者。 ミカは赤竜の敗因を 「奢り」 だと言ってた。 確かに、 「聖典」 が望まないことは決して出来ないという制約の中で、赤竜は自分に出来ることを頑張っていたけど、K2は自分には出来ないかもしれないことも厭わなかった。 奢りといえばそれまでだけど、あの外見になったことを誰よりも憎んだのもまた赤竜なんだろうし… 難しいです。 


愛されたくて仕方ないほど愛してるのに、憎しみでも良いから一番になりたいなんて、どれだけ苦しめば出てくる発想なんだろう? 赤竜の辛さも、忍の懺悔も、もなちゃんの涙も、ミカの忍耐も、K2の恍惚も、源は 「愛」 っていう同じなのにこんなにも違う。  『誰かを愛すって、こんなに非道い自分をみつけてしまうこと』 …そう言ったのはりなちゃんだけど、至言でした。 ミカが体現してたし (ラストの彼は神懸り的に美しかった…!!)、 求めるものが同じである以上、人間もデーモンも同じことをするんだな。 それなのに愛の形は様々なんだから不思議だ。 それこそ、ミカが何千億年でも待てるくらいに、不思議で奇跡的なものなんだろうな。


個人的にちょっと面白いと思うのは、この作品では特別 「このキャラが好き!」 というのがないことでしょうか。 最初から最後までオイシイなーと思うのは、ミカだけど(笑)。 一番泣いたのも、 (りるの大好きな) 恋愛方面ではなく侑くんとグリフィンの場面だったし。 何ていうか、全員が「物語」の中にバランスよく配置されているので、主要メンバーは皆平等に魅力的だし、平等に欠点も見えるんですよね。 これってストーリーがきちんとしていないと発揮されない底力だから、スゴイなぁと思います。 細かいところまで無駄のない設定なので、一読して 「??」 な場面も、再読すると 「あ、なるほど!」 となるあたりも面白い。 11巻で丁度良いラストも好印象だし、物語を読み解くという意味では、久々に大仕事をした気持ちになった作品でしたー。


・文庫版


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>NKさん

コメントありがとうございますw

>これはどちらかというとマイナーな作品なんですかね・・・

う~ん、どうなんでしょう? 私は白泉社っ子なので、メジャーマイナーの判断がしづらいです (白泉社関連はたいてい知ってるから・笑)。
作者の樹なつみさんは、過去作品がいくつもアニメ化・舞台化もされているベテラン作家さんです (『花咲ける青少年』など)。
ずっと白泉社をメインとしてましたけど、同時に青年誌等でも連載したりしてたので、知名度はあると思うんですけど・・・。

>「デーモン」の意味を調べてみると、鬼神、悪霊、悪魔のことだそうです。

そうですね。 「デーモン」の意味についても作中でいろんな人がいろんな風に捉えているので、その感じ方の違いによる齟齬なんかも生まれたりします。 物語に無駄がない、と私が感じた理由はその辺にもあるんですよ。

>死ぬことができないというのはそんなに苦しいものなのかな?と考えました。

これを読むと、恐ろしいことだと思うようになる・・・と思います(笑)。 もう、苦労とかそんなのすら感じないほど生き続けるんですよ。 想像すると怖いです。

>私たちはよく不老不死にあこがれますが、

先ほどから全部そうなんですけど、NKさんがコメントで書いてくださっていることは全部作中で描かれています。 不老不死への憧れも描かれてます。 スゴイ。
デーモンの意味を調べてくださったこともそうですけど、私の書いた内容をきちんと理解して、その上で考えてくださっていることがすごく伝わってきます。
ありがとうございます、嬉しいですw

私の方がNKさんに読み解かれている気がしますよ(笑)。

聞いたことのない題名ですね。勿論読んだこともありませんし・・・。
それに作者名もはじめて聞く名前です。
これはどちらかというとマイナーな作品なんですかね・・・(それとも私がしらないだけ?)。

「デーモン」の意味を調べてみると、鬼神、悪霊、悪魔のことだそうです。まぁ、この漫画の設定のように、霊的存在であることには変わりないですね。

この漫画の内容をちょっとだけ調べてみました。死ぬことができないというのはそんなに苦しいものなのかな?と考えました。
確かに、生き続けると楽しいことが沢山あります。しかしそれは同時に、苦しいこともそれだけ経験するということにもなります。
私たちはよく不老不死にあこがれますが、仮にそうなる方法があるとしてもちょっと考えものですね(苦笑)。

物語を読み解くのも楽しいと思いますよ。そーだったのか!という爽快感もありますから。

>にくさん

コメントありがとうございますw

>「SHORT TWIST」佐々木淳子です。

教えてくださってありがとう!
絶版とのことだったので、ちょっと調べてみました。 なるほど興味深い内容ですね。 
オンデマンド配信があって、そこで数ページ試し読みをすることが出来ました。 うわぁ、これは読んでみたい内容ですね! 
さすがにオンデマンドで買うのはちょっと・・・と思って、今日はブックオフを2軒めぐって探してみました。 けどやっぱり見当たらず…。 う~ん、ここはAmazon出品者に頼るしかないかなー?

>日本のSFを選ぶとどうしてもマンガばかりが上に来てしまう

私は普段あまりSFというジャンルを意識して読んでないんです。 といより、SFって許容範囲が広そうで実は狭そうで、どんな作品がそこに属しているのかを量りかねている感じ。 『パトレイバー』とかはSF? でも日常モノ? 『銀河英雄伝説』はSFかな? あれは好きでしたw

>佐々木淳子は本当に素晴らしいSF作家だと思います。

不勉強にして存じなかったのですが、試し読みページがかなり気になったのでもうちょっと探してみます。 にくさんがそこまで仰る実力は、やはりこの目で実感したい! もし入手できたらご報告しますねーw

>とうか、あの、残りのあと一つの作品って何ですか…?

「SHORT TWIST」佐々木淳子です。
短編ですが、単行本の表題作になってますね。
大分前のなので予想通り絶版ですが、アマゾンを覗いたら出品はあるみたいで。

俺はSF小説大好きなんですが、日本のSFを選ぶとどうしてもマンガばかりが上に来てしまう、その中でも佐々木淳子はトップ。

佐々木淳子は本当に素晴らしいSF作家だと思います。だけど、凄すぎて、ハッピーエンドを狙わないときの描写が容赦なさ過ぎる。
キャラクターが少女漫画してるだけに、余計に怖いんです。

>にくさん

いつもコメントありがとうございますw
にくさんも既読だったようで、なんだかすごく嬉しかったです。

>昔のLaLaを髣髴とさせるスペクタクルに引き込まれてました。

LaLaってこういうスケールの大きな作品を育ててきた雑誌なんですよね。 そう思うと今はちょっと小粒なのかな?と再認識できたので、この作品を読み返せたのは私には収穫でした。

>これは違いますね。

仰るとおりだと思います。 日常に引きずられて矮小化、なんて全然感じない作品です。 むしろ生活臭なんてないくらいですしね。 本当に、物語のために設定があり、設定ゆえに物語が生きている感じです。 それを成功させたことが本当にスゴイなと。

>時間の感覚が変われば価値観が変わる。その違いをリアルに描きながら、でも、ただ理解できない異質な精神ではなく、「愛の渇望」という根幹は我々と同じ者として共感すら感じさせてくれた。

死ぬのが怖いという人間と、生きるのが怖いというデーモン。 価値観の根底が違うのに求めるものは同じだなんて、皮肉ですよね。 だからこそ、共感できる物語に仕上がってるんですけど、つくづく「愛」って深いなぁと思わされました。

>私はコレをもの凄く恐ろしい物語だと思いました。

私も怖かったです。 いろいろ考えちゃったし。 何千年も待ち続けるほどの愛情って単純に怖いですよね。 もちろん、得られなければ死を選ぶほどの赤竜の愛も重いけど(笑)。
でも何ていうか、最後に「わたしは”悪魔”だよ」と笑ったミカの笑顔が綺麗だったので、人間って元々、「魔」に魅入られる生き物なんだよなって思って。 でもその「魔」も人間を求めるんだなぁと思ったら、「みんな不器用すぎるだろ」と…。
そう思うと、怖さも重さも、何だか愛しく思いましたよw

>読み返さないけど、多分一生忘れないんだろうなあ

読み返すことばかりが正解じゃないから、いいと思います。 むしろそれほどのインパクトを残せたのなら、作品としては大成功じゃないでしょうか。
にくさんにとって特殊な位置づけの作品についてお話が出来たこと、嬉しかったです。

とうか、あの、残りのあと一つの作品って何ですか…?(気になった!・笑)

連載でしか読んでませんが、昔のLaLaを髣髴とさせるスペクタクルに引き込まれてました。

宇宙規模の設定を、日常の設定の中で物語る話は多いですが、その場合設定の大きさが言葉だけで、イメージは日常に引きずられて矮小化することが日本SFでは多いのですが、
これは違いますね。
時間の感覚が変われば価値観が変わる。その違いをリアルに描きながら、でも、ただ理解できない異質な精神ではなく、「愛の渇望」という根幹は我々と同じ者として共感すら感じさせてくれた。
私はコレをもの凄く恐ろしい物語だと思いました。
多分、これ、もう読めない。
引き込まれすぎたんです。

俺にとっては永遠の恐ろしさを「火の鳥」以上に感じさせてくれたたった2つの作品のうちの一つです。
読み返さないけど、多分一生忘れないんだろうなあ
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